42


アスナさんがバイトに行ってからの数時間、僕は毎朝このかさんと一緒だ。 

「ネギくーん、いっしょにたべよ〜」 
この人はいつもパジャマ姿で僕に朝ご飯を作ってくれる。 
ぼーっとしたようなところがあるけれど、 
それでも、しっかりしたところはお姉ちゃんに似ているのかもしれない。 
アスナさんはアスナさんで、顔はお姉ちゃんにそっくりなんだけど…。 
…凶暴…なんだよなぁ…。 
かといって、このかさんがおしとやかか、と言うとどうなんだろう…? 
「…ネギ君…冷めちゃうよ…?」 
「あ、す、すみません…」 
目玉焼きが冷めてしまう。 

…正直、日本に来てからというもの、僕はあまり休んでいなかった。 
もちろん、ソファの上でも熟睡はできるし、 
気付いたらアスナさんのベッドの上に居たりすることもあって、体の方は万全だった。 
たとえ昼間にアスナさんの鋭いキックが僕に炸裂しようとも。 
魔法学校での修行が幸いして体が疲れを覚えることはほとんど無かった。 
でも…やっぱりたくさんの人にものを教えるって大変なことなんだなぁ…。 
…ふぅ 
ソファにもたれかかり天井を見詰めながらため息を漏らす。 

と、「どーしたん?ネギ君。朝からため息なんてついて」 
ひょこっと、視界をこのかさんの顔が覆った。 
「わ…このかさん…」 
おどろいて体を離す。 
「はい、食後のコーヒー。」 
慌ててマグカップを握る。 
「あ、どうも…」 
そのまま、このかさんはソファの前のスケルトンテーブルの前に腰を下ろす。 
「なんか悩み事でもあるん?」 
「え…あの…、はい…。」 
「なんや、私に言うてみん?言いたいこと言うと、楽になるもんやで。」 
「え…っと、実は…。」 
「ふむふむ…。」 



「…なるほど、やっぱ教師はむつかしい…か。」 
「はい…。」 
「そりゃ10歳の子供にもの教えろ、言うのは無理があるて…なぁ。」 
「…はい…。」 
まだ夜明けぬ世界を映す窓に沈黙が流れる。 

「…ネギ君は向こうにおるとき、困ったときはどうしてたん?」 
「え…っと、お姉ちゃんに相談したり…」 
気分が落ち着くまで抱きしめてもらったり…と言いかけて、のどまで出た言葉を飲み込んだ。 
さすがにそれは言いにくい。 
「そっか…ネギ君、お姉さんがおったんやな…」 
「はい…」 
なんだか言いかけた言葉の意味を悟られたような気がした。 
「…こんなのはどうや?ネギ君があっちに帰るまで、私がネギ君のお姉さん役…って無理があるか…。 
 あははっ」 
「そ、そんなことないですよっ」 
なぜ、僕はこんな言葉を口にしてしまったのだろう。 
「え…?そ、そうかなー?私でもつとまるんやろか?お姉さん役。」 


僕は黙りこくったままだ。 
このかさんは抱えていた膝を横に倒す。 
「…私に甘えてみん?お姉さん役の練習。」 
僕は黙りこくってうつむいていた。 
このかさんが立ちあがって、ソファまで歩いてきてぽすんと座る。 
「ほら、ネギ君。」 
「わっ…」 
わきを持ち上げられてソファの上に寝かされる。僕の頭は、このかさんの柔らかい太ももの上だ。 
「どう…?落ちつく?」 
このかさんとじっと目が合ってあまり落ちついているとは言えない。でも… 
「アスナが帰ってきたらなんか言いそうやから、帰ってくるまでな…。」 
僕はなんだか相変わらず黙りこくったままだ。 
今、僕が喋るのはとても不相応なことのようだった。 
このかさんの声ととまだ明けぬ夜の静寂だけが相応しいものだった。 
「うふふ…。…ネギ君、よく見ると可愛い顔してんなー…。」 
じっ…とこのかさんと目が合う。 



知らない間に上体を起こして、僕はこのかさんに口付けしていた。 
一瞬、このかさんは寝ぼけているような目をしていた。 
それから少しの動揺。それからやさしく目を閉じて唇を離した。 
「…ネギ君…お姉さんともキスとか…するん? 
 外国の人の生活はよーわからんわ…」 

少し動揺するこのかさんが居る一方で、僕の頭の中は激しく撹拌されていた。 
まるでハンドミキサーをボウルに入れてかき回すように。 
あるいは湖底の栓が抜かれた湖のように。 
なぜ…僕は…?…教師として…失格…?お姉ちゃんにも「女の子にはやさしく」って言われてたのに…。 
僕は何を? 
「ネギ君…。」 
「は、ひゃいっ?」 
「私…キスとかしたことなかったんやけど…。キスってこんなに気持ちいいもんなん?」 
「え、えっと…」 
僕もしたことがなかったから答えようがない。 
「え…と…よかったら、もうちょっとしてみん…?すごい…気持ちいい…。」 


「えうっ…あの…でも…。」 
「私はええんやよ…」 
じっと僕を見ている、このかさん。その頬も赤く染まっている。 
僕は戸惑いながら、このかさんの頬に手を当てる。 
僕の心臓が、加速していくリズムに乗って音を立てる。 
このかさんがすっ、と目を閉じる。 
僕は上体を起こし、このかさんの熱い頬に手を当て引き寄せる。今度は自分の意思で「えうっ…あの…でも…。」 
「私はええんやよ…」 
じっと僕を見ている、このかさん。その頬も赤く染まっている。 
僕は戸惑いながら、このかさんの頬に手を当てる。 
僕の心臓が、加速していくリズムに乗って音を立てる。 
このかさんがすっ、と目を閉じる。 
僕は上体を起こし、このかさんの熱い頬に手を当て引き寄せる。今度は自分の意思で 

2度目のキス。 


唇を重ねたまま固まっていた。 
そして数秒後。 
「ぷはっ」 
息を止めていたので、慌てて空気を吸い込む。 
まだ手はこのかさんの頬に当てたままだ。 
「あははっ…ネギ君て…なんかほんとにかわえーな…」 
このかさんは僕の目を見ながらそう言った。 
「え…」 
どういう意味なんだろう。この人の真意は…読みづらい。 
読心術をもってしても、だ。 

「…なぁ…ネギ君…。」 
「は、はい…?」 
「ディープキスって…したことあるん…?」 
「え…なんですかそれ…?」 
「えっ…とね…舌とか…絡ませるやつ…? 
 アスナに聞いてんねんけどな…。なんかすごい気持ちええとか…。」 
「……舌をからませるんですか?」 
「…そうやよ…ディープキス、私にしてんか…?」 
「じゃ…じゃぁ…」 
もう一度このかさんの顔を引き寄せ、唇を重ねる。 
このかさんの唇が開く。そしてゆっくりと舌が僕の口の中に入ってくる。 
このかさんの舌先は震えていた。 
思わず、両手で挟んだこのかさんの頭をソファの背もたれに押し付ける。 
「…む…ネギ…君…」 
…れろ…むちゅ…れる…にゅ…ちゅ… 
少しずつ、このかさんが積極的になるのが分かる。 
このかさんのよだれの味がしてくる。甘い…匂いがする。 


お互いの頭を抱いて、戯れるように慈しむように舌をからめる。 
…ふ…に…ちゅ…ぺろ…れる… 

延々と続いたキスの後、いつのまにか、 
僕とこのかさんはソファの上で向かい合ってお互いの頭を優しくなでていた。 
このかさんの髪からはいい匂いがする… 
「…ウチ、キス…ホントに初めてやったんよ…。」 
「え…」 
僕はなんと答えていいか分からなかった。 
「でも…ネギ君にやったら…ええか…」 
顔を赤らめて、独り言のように呟く。 
「え…あの…。」 
何を意図しているのかわからない。 
「ネギ君…。」 
このかさんが真っ赤な顔で、真面目な目をして言う。 
「は、ひゃいっ!」 
「ウチのじいちゃん…あ、学園長のことやけど、」 
「は、はい…。」 
なぜ、急に学園長の話になるんだろう…。 
「ネギ君が来たあの日、冗談で、ウチのこと彼女に…って言うたん、覚えてる?」 
「ええ…」 


あの日、緊張する僕を和ませるために学園長はそんな冗談を口にしてたっけ…。 
あ!その時、学園長は、このかさんに金槌で頭を叩かれてたんだ。 
あのツッコミは痛そうだったなぁ…。 

と、意味のない回想をしている僕に、このかさんは言葉を継ぐ。 
「あの時は、冗談キツイなー、て思たんよ…。」 
「はは…」 
実際、僕は子供だ。見た目も…中身も。 
「でもな…ウチ、ネギ君といっしょの部屋で暮らしてきて…その… 
 彼女、いうのも、まんざらやないなー…て…。 
 ネギ君、見た目よりたくましーし…。 
 …なんか面と向かってこんなこと言うの照れるわ… 
 あはは…。」 
「…僕なんてホントに子供ですよ…。」 
「別にウチも子供やない、言うてるわけじゃないよ… 
 ただ…ウチはネギ君のこと、弟みたいに思うてる…。 
 だから、さっき、ネギ君にお姉さん役が認められたみたいで嬉しかった… 
 彼女や、弟や言うて、なんか矛盾してるんやけどね…。」 

そうか…。 
このかさんも僕のこと…弟みたいに思ってたのか…。…じゃあ「彼女」って…。 
でも、迷うと同時に、僕は閃いていた。僕も、このかさんと同じように、彼女に抱く感情が、 
矛盾していたのだ。 
仄かな愛情と、兄弟愛に似た親近感。 
「…でな、さっきネギ君にキスされて、初めて気付いたんよ… 
 ウチ、ネギ君のこと…。」 
その先は言わなくても僕にはわかっていた。 
もう、二つの感情に苛まされるのは、やめだ…。 
「…でね…あの…もし良かったら…なんやけど… 
 ウチのバージン…ネギ君にあげよう…思うてんねんけど…。」 

「…は? 
 えぇ?!」 
「え…な、なに?」 
なぜ、いきなりそんな話になるんだろう。 
「…日本の女性は…そんなこと簡単に言うんですか…?」 
「え…?いや、アスナがしょっちゅう”高畑先生にバージンあげる”言うとったん…やけど…」 
ああ、なるほど…アスナさんなら言いかねないセリフだ…。 
「そんな簡単に言うもんじゃないですよ…」 
教師と生徒がそんなことをするもんじゃない、という考えも頭を掠めたが、 
あまりに無粋だったので口には出さなかった。 
「…なら…なおさら…ネギ君、ウチのバージンもろうてくれる…?」 
泣きそうな目でこのかさんがその言葉を口にする。 
「え…でも…僕、なにしていいかわかんないですよ…」 
迷惑な友人による、致命的な勘違いだったとしても、それでも言い張る、このかさんの目が 
罪悪感に苦しむ僕を承諾させてしまった。 


「…じ、実はウチも…」 
二人とも硬直していた。 
「え…っと…じゃぁ…ネギ君…とりあえず…ベッドに…いこっか」 
「は、はい…」 
二人でソファから立ちあがって、僕が先に二段ベッドの下に入る。 
レディファーストとか言ってられない。 
このかさんが先に入って僕が上に乗ったとしたら、 
ある意味、このかさんに恐怖を与えるかもしれないから。 
ただでさえ、このかさんは、さっきのとんでもない勘違いで動揺してるし…。 

ベッドに入ると、このかさんの髪の、いい匂いがした。 
このかさんが僕の横に寝そべる。 

僕はぎこちなくベッドの中で体を固めていた。 
じっ…、とこのかさんと目が合う。 
ある意味甘くて気まずい数秒間が僕の意識の中で長く引き伸ばされる。 

やがておもむろにこのかさんが右手を僕の方に伸ばしてきた。 
僕はまだ動けずにいる。 
このかさんは僕の頭の後ろに手を当ててぐっと自分の方に引き寄せる。 
「わ…」 
ぽふっと僕の薄い胸板とこのかさんの胸が触れ合う。 
そしてこのかさんが僕の背中に腕を回す。 
そのまま、ぎゅっと抱きしめられる。 
このかさんの胸が僕の胸板に押しつけられる。 
「こ、このかさん・・・」 
このかさんの目は少し笑っている。 
僕もおずおずとこのかさんの胴に腕を回す。少し力を込めて。 
二人の体が密着する。 
心臓の音が重なる。 
「あ…ネギ君の鼓動が聞こえる…」 
このかさんも同じことを考えていたらしい。 
そう言ったこのかさんの唇に吸い寄せられるようにキスをしていた。 

「ん…ネギ…くん…」 
ゆっくりと重心を移動させてこのかさんの上に乗る。 
「あ…」 
このかさんの顔が少しずつ上気してくる。 
「…ネギ君…ウチの裸、見てみたい…?」 
「え…、あ…。はい…。」 
「うふふ…なんか、ネギ君にそう言われると嬉しいなー…」 
パジャマのボタンに指をかけて、ぷち…ぷち…と外していく。 
「…はい…」 
一番下まで外し終わった。 
おもわずごくりと唾を飲み込む。 
「…さわってみてもええんやで…」 
このかさんの下から引きぬいた右手をそっと、パジャマの合わせ目に当てる。 
興味の赴くまま、するっ…と、中に滑り込ませる。 
このかさんのふくらみに手が触れる。 

「あ…」 
ぴくんとこのかさんの全身が反応する。 
「え…だ、大丈夫ですよね…?痛くありませんよね?」 
「うん…大丈夫…人に触られるのって初めてやから…」 
そのまま輪郭を伝って、このかさんの左の胸を一周させる。 
「ん…」 
このかさんの肌はつるつるしていて、お姉ちゃんの肌よりも張りが合った。 
手を浮かして、このかさんのパジャマを、右手の甲の上を滑らせる。 
するっ…ぱさ… 
露わになったこのかさんの白い裸身。 
「すごく…綺麗ですよ…」 
「ふふ…ありがと…」 
頬を赤く染めたままこのかさんがほほえむ。 
(続く) 



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