◆K05j0rAv6k
とろみ海鮮スープ・中華風
「ゆえってば、本当に変な飲み物が好きよね〜」
「な……何を今さら、ですか?」
寮の部屋、同室の3人でくつろいでいた時。唐突にしみじみ呟いたハルナに、夕映は思わず聞き返す。
彼女たちの友人関係もいい加減長い。本当に何を今さら、という感じではあるのだが。
「いやさ〜、ゆえ吉が見つけてくる変な飲み物って、他の誰かが飲んでるの見たことないからさぁ。
そんなの作ってるメーカーもメーカーなんだろうけど……。今飲んでるソレは、何?」
「これは『とろみ海鮮スープ・中華風』です。『飲むゼリー』みたいな喉越しで、なかなか美味ですよ」
「うっわ! 中途半端に味が想像出来ちゃう分、余計ありえねぇ〜〜!
しかもそれを紙パックからストローで飲むかァ!? も〜何考えてるかなー、この味オンチは!」
「……味の嗜好が平均から大きく外れていることは認めますが、『味音痴』とは聞き捨てならないですね。
こう見えても私の味覚はかなり鋭敏です。それに飲むもの全てを美味しいと感じてるわけでも無いです。
この『とろみスープ』シリーズは、久々のヒット作ですよ」
天を仰いで大袈裟に驚くハルナ、憮然とした表情で反論する夕映。
そんな2人のやりとりを横から見ていたのどかが、おずおずと口を挟む。
「……でもゆえー、何でゆえはそんな変わったものばかり飲むのー?」
「何故って……?」
「ゆえの飲んでるのって、ふつう、見つけても飲もうとも思わないのばかりだから。
何か、そーゆーのを飲み始めるきっかけとかあったのかなー、って……」
のどかの問いかけに、夕映は少し天井を見上げて記憶を探るような表情をした。
そして――しばしの沈黙の後、彼女の頬が僅かに赤く染まる。
……でも、それだけだ。ほとんど表情を変えることなく、再びのどかの方に向き直り、淡々と話す。
「きっかけのようなものは特にないです。強いて言えば、この学園で色々売っていたからでしょうか。
特に図書館島の自販機。あの奇妙で豊富な品揃えは、のどかも良く知っているでしょう?」
「う、うん、でも……」
「……あれ〜〜? ゆえ、何か言おうとしたことあるんじゃないの〜?
怖くないからさー、お姉−さんに素直に全部白状しなさい♪ ほらほらぁ♪」
「べ、別に何もないですよ。変なこと言わないで下さいです、ハルナ」
のどかもハルナも僅かな表情の変化を見逃さず、全く納得してない様子ではあったが。
夕映は黙って視線をズラし、手にした飲み物を啜る。もう2人に喋ることはない、と言わんばかりの態度。
とろみのついた中華風海鮮スープ。白く濁った粘ばり気ある液体が、ストローを伝い口腔に流れ込む。
口の中に広がる魚介類の香りと旨み。鼻に抜けるこれは、イカの香りだろうか。
ちょっとクセのある苦味、これは薬膳を意識したのか漢方のエキスを入れているらしい。
僅かに喉の奥に絡みつく感覚があったが、それさえも夕映は好ましいものと感じてしまうのだった。
「これは……久々のヒット作ですね。一般受けはしないと思いますが……」
――私の祖父、綾瀬泰造は孤独な人でした。哲学者は常に孤独なもの、とは言いますが、それにしても。
まぁ孤独だったからこそ、唯一慕っていた私のことを、あんなに可愛がってくれたのでしょうね。
その日私が訪れた時も、おじい様は書斎でたった1人、本を読んでいましたです。
「おお、夕映か。良く来てくれた」
おじい様の書斎は、そうですね、まるで図書館島の一室のような、四方を書架に囲まれた大きな部屋で。
本に埋もれるようにして暮らすおじい様。滅多に笑わないおじい様。偉大な哲学者であるおじい様。
そんなおじい様は、しかし私に対してだけは素直に笑ってくれたのです。
「その制服はどうしたのかね? いつものものとは違うようだが」
「中等部の制服が届いたので、おじい様にも見てもらおうと思って来たのです」
「そうか……夕映も4月からは中学生か。大きくなったものだな。似合っているよ、その制服も」
「そ、そうですか?」
「ああ。とても可愛いよ」
おじい様は、そう言うと私を優しく抱きしめてくれました。
本の薫りに包まれた、大きな書斎。小さな窓から差し込む、柔かな光。微かに薫る、刻み煙草の匂い。
私は、おじい様が大好きでした。この世の誰よりも、大好きでした。
そしておそらくおじい様も、私のことを……
「……おじい様」
「ん? どうした、夕映?」
「……おじい様の、おっきくなってるです」
……せっかくしみじみとしてたのに、まったく雰囲気ブチ壊しです。思春期の男の子でも無いんですから。
私と密着したおじい様、その股間が、熱く、硬く盛り上がって……
「う――夕映の制服姿、新鮮でな。思わず年甲斐もなく……」
「……まあいいです。どうせすることは一緒ですから。ほら、さっさとズボン下ろして下さい。私も脱ぐです」
「あー、夕映、今日はそのままの格好でお願いできんかね? つまり、その……」
「――おじい様も好きですね。いいですよ、でも制服は汚さないようにお願いします」
私は思わず溜息をつきました。それまでにも何度もしてきたことですし、展開は読めてはいたのですが。
祖父と孫娘、5倍以上も歳の離れた近親相姦――まあロクなモンじゃありませんです。自覚はありました。
でも情動というのは本人にとっても意のままにならぬもの。否定しても否定しきれるものではありません。
これでも互いに、葛藤のようなものはあったんですけどね。
それに普段のしかめ面から一転、子供のように素直に欲望を口にするおじい様が、なんだか可愛くて……。
書斎の真ん中に置かれた大きなソファ、そこがいつもの場所だったです。
おじい様に促されるままに、私は大股を開いてそこに座りました。
床に膝をつき、覗き込んでくるおじい様……さ、さすがにこれは、かなり恥ずかしい格好ではないでしょうか。
おじい様の目の前には、丸出しの私の股間、そしてそれを覆う小さすぎる布地が見えているはずで……
「ふふ……プリーツスカートの下に、子供らしからぬこんな下着……いけない子だな、夕映は」
「だ、だって、おじい様が、紐のパンティが好きだから……だからわざわざ、なのですよ……?」
「私のせいにするのか。ますますいけない子だ。こんな下着は取ってしまおう」
「ま、待って、おじい様ッ!」
シュルッ。私の制止にも構わず腰のヒモが解かれ、私の大事なところが外気に晒されます。
ムワッと篭っていた熱気が逃げていく感触。思わず顔が赤くなります。
「おや、もう濡れているのかね? 夕映も準備万端ということか」
「そ、そんなことないです! わ、私は、濡れてなんて……」
「嘘は良くないな。お仕置きだ」
「ひうッ!?」
ニヤリと笑ったかと思うと、おじい様の舌が私のそこをペロリと舐め上げました。
おじい様に色々教え込まれてきた私の身体は、それだけですっかりスイッチが入ってしまって……。
と言ってもその頃は、今よりなお幼い子供の身体だったのですが。我ながら歪な成長をしたものです。
「ふふふ、甘露、甘露」
「いやぁ、そんなとこ、啜っちゃダメですッ! それ以上されたら……!」
陰唇を割り広げ、おじい様の舌が縦横無尽に暴れ回ります。おじい様の口が、音を立てて愛液を啜ります。
おじい様の頭をスカートの上から押さえつけるような格好で悶えてしまいます。
舌が小陰唇を、膣口を、処女膜をなぞる度に、背筋を快感が駆け上ります。
やがて執拗なクンニリングスの末、私は一回目の絶頂に押し上げられ……声にならない悲鳴。
パタタ、と飛沫がおじい様の顔にかかる音が響きます。どうも「潮吹き」というのをしてしまったようでした。
この潮吹き、自分の個人的体験としては、失禁した時の感覚と区別が困難のように感じるです。
だからいつも、直後に激しい自己嫌悪に襲われて……私は荒い息をつきながら、おじい様に謝りました。
「あう……。おじい様、すいませんです……。顔を汚してしまいました……」
「謝罪は言葉よりも態度で示さねば意味がない。言葉はいくらでも嘘をつくものだからね。
ほら、今度は夕映の番だ」
「はいです……」
こういう時に哲学じみた、でも実は何の意味もない言葉を口にするのは、おじい様の数少ない欠点です。
眼鏡に水滴がついたままのおじい様を、入れ替わるようにソファに座らせ、私は足元に膝をつきました。
ジッパーを下げた途端に飛び出してきた勃起。表情こそポーカーフェイスですが、こっちは素直なものです。
しかしおじい様の年齢を考えるとかなり若いと言えるのでしょうか? 私も本での知識しかありませんが。
私は迷うことなく、おじい様のソレに舌を這わせ始めました。
なんとも言えない、「雄の味」としか表現のしようのない味覚が、私の舌を刺激します。
「ああ、気持ちよいよ、夕映」
「そうですか。こちらはあまり美味しくもないのですが……おじい様が喜ぶなら」
上目遣いに見上げたおじい様の表情は、本当に蕩けそうで。
私が快感を与えているのだ、と思うと、思わず舌の動きも早くなりますです。
一通り唾液をまぶしたら、今度は口を大きく開けて咥え込みます。
最初の頃はすぐに顎が痛くなったものですが、この頃にはすっかり要領を覚えていました。
先走りの汁の変な味だけは、いつまで経っても慣れることができずにいましたが……。
「夕映……このまま口の中に出して構わんな……? 飲んでくれるな……?」
「……ちょっと待つです、おじい様」
感極まったようなおじい様の声。私ははッとすると、愛撫を止めておじい様の陰茎を握り締めました。
射精を拒む圧力と、急に途絶えた心地よい刺激に、おじい様が驚いた様子で私を見つめます。
「夕映……?」
「おじい様……こんなことを口にするのは、その、躊躇われるのですが……
今日も、これで終わりなのでしょうか? つまり、その……今日こそは私と一緒に、その……」
そう、私は――おじい様とこんな関係を結びながらも、未だに処女だったのです。
未だに、最後の一線だけは超えてなかったのです。
――私とおじい様の関係は、いつ頃からになるのでしょう。
最初は、一緒にお風呂に入った時の、身体の洗いっこから発展したのだったと思います。
幼い頃からおじいちゃんっ子でしたからね。かなり長いこと、一緒に入っていたのですよ。
無邪気な洗いっこ、いつしかそれは性的な遊びに発展して。
その意味はすぐに理解しました。小さい頃から、教科書「以外」の本なら沢山読んでましたから。
けれど、嫌じゃなかった。未熟ながら快感もありました。何より、おじい様が喜んでくれるのが嬉しくて。
きっとおばあ様を早く亡くされ、やもめ暮らしの長かったおじい様は寂しかったのですね。
以来、私の成長に合わせ、おじい様との「秘密の遊び」はエスカレートし、書斎に場を移したのですが。
おじい様は、どこまで行っても最後の一線は越えませんでした。
私の処女を、奪おうとはしませんでした。
愛撫し舐めあい触りあい、オーラルセックスまではやっていたものの。
膣に挿入しようとはしませんでした。膣には指一本入れませんでした。肛門性交もありませんでした。
それは……まだ子供で小さな私の身体を案じて、というだけでは無かったように思います。
おそらくそれは、おじい様が私に対して抱く、相反する2つの愛情の妥協点だったのでしょう。
祖父として、たった1人の孫娘に対して抱く愛情と。
1人の男・綾瀬泰造として、1人の女・綾瀬夕映に対して抱く愛情と。
……もちろん、最後の一線を守ったからと言って、祖父としての立場が許されるわけではありません。
2人の関係が露呈すれば、2人ともオシマイです。たぶんおじい様は性的虐待の謗りを免れないでしょう。
けれどきっと、それがおじい様なりに悩み、考え、ギリギリのところで見出した妥協点だったのでしょう。
そう、これがおじい様にとってのギリギリの妥協点で――でも、それを知ってなお、私は。
「もう中等部に上がる歳です。初経も先月来ました。 時代が違えば、もう結婚が許されていた身体です。
私のことを気遣う必要はもうないのです! そんな言い訳する必要は、もうないのです! だから!」
今のままでも、露見すれば互いの破滅の避けられない関係――ならば、いっそのこと。
おじい様を困らせないよう、強くない言葉を選んでいたはずなのに、最後は叫んでしまっていて。
床に膝をつき、涙を浮かべた私を――おじい様もまた、床に膝をついて、抱き締めてくれました。
「夕映……いつかお前は、本当に愛するべき者と出会うだろう。真に巡り合うべき相手と出会うだろう。
あるいはその相手もまた、許されない相手かもしれない。大きな障害があるかもしれない。
けれど、それは少なくとも、私ではないのだよ。だから」
「でも、私は」
「祖父と孫という関係を抜きにしても……私にはおそらく、時間がない」
「え――?」
おじい様の静かな言葉。覚悟と諦めの秘められた言葉。
私は思わずおじい様の顔を見つめ直しましたが、おじい様は優しい微笑みを浮かべているだけで。
「まあ、焦ることはない。物事には順番があり、今はその時でないというだけの話だ。
……そうだな、私だけが気持ちよくなっていては悪いな。いつものアレをやろうか」
問い返す間も与えられず。
おじい様は私を抱えながらソファに倒れこみます。そのままクルリと私の体を回転。
気がつけば目の前にはおじい様の勃起したペニス、私の股間にはおじい様の吐息がかかり……
男女双方が横たわってのシックスナイン。色事48手で言えば二つ巴。まあ無駄な解説ではありますが。
オーラルセックスが「限界」だった私たちにとって、それは定番のフィニッシュの体勢でした。
「ちょっと、おじい様、誤魔化さないで下さいです……ああッ!」
「ふふ、しゃぶりながら夕映も感じていたのかな? 口腔粘膜もまた性感帯の1つだからね。
夕映も続けてくれ」
「はいです……」
思わず流されてしまったです。私はアホです。目先の肉欲に負け、大事なことを聞きそびれててしまうなど……
……と、自分を責めつつ、私も再びおじい様のペニスをしゃぶり始めました。
陰嚢にも手を伸ばし、やわやわと揉み上げます。舌でカリ首をなぞり、鈴口をチロチロと刺激します。
おじい様も、舌で膣口をなぶったかと思うと、クリトリスを甘噛みして。私の弱いところを知り尽くしているです。
「夕映、そろそろ……」
「分かってる、です……」
互いの身体を抱いたまま、そのまま90度横に回転。女性上位のシックスナイン、逆さ椋鳥に移行します。
おじい様はソファの肘掛に頭を乗せ、私との身長差を補い、私の股間に顔を埋めます。
私はおじい様のを完全に口の中に収め、頭ごと上下にピストンさせてラストスパートをかけます。
口の中でおじい様のが一回り大きく膨らむのが分かります。私の方も、もう限界です。
「行くぞ、夕映ッ!」
「むぅッ、むむむむッ!」
(ああッ、漏るですッ! ごめんなさい、おじい様ッ!)
同時に上り詰めた絶頂。咄嗟の謝罪は、しかしおじい様のを咥えているので言葉になりません。
おじい様の精液が、私の口の中にぶちまけられます。溢れんばかりの勢い。強烈な匂い。
私も、頭の中が真っ白になって……ジョロジョロと漏れる、これは今度こそ潮ではなくおしっこです。
おじい様の顔を、服を、ソファを汚しながら、私は恍惚とした表情で、口の中の精液を飲み下しました。
「……何度飲んでも、変な味、です……」
――2年前。
私が中等部に上がるのと前後して、大好きだった祖父はこの世を去りました。
あの制服をおじい様に披露して、間もなくのことです。急に倒れて、それっきりでした。
きっとおじい様は己の死期を直感してたのでしょうね。苦しまずに逝けたのはむしろ幸いだったでしょう。
しかし、取り残された当時の私には、そんなことを思う余裕もなく。
この世界の全てが、ひどくつまらないもののように感じられていたです。
この世界の全てが、味気ないものに感じられていたです。
いや、比喩でも何でもなく……本当に味気なかったのです。味が、無かったのです。
何を食べても、味が感じられない。何を飲んでも、味が感じられない。
おじい様の濃厚な精液の味――あれがフラッシュバックのように蘇り、現実の味を吹き飛ばしてしまう。
おじい様が生きていた頃は、別に美味しいとも思ってなかったのに。思い出したりもしなかったのに――
あの頃の私は、生きている実感が極めて希薄でした。
味覚に限らず、全ての「この世界のモノ」が遠く感じられて、まるで半分自分が死んでいるようで。
いやおそらく本当に死んでいたのでしょう。死んだおじい様に、魂を引き摺られていたのでしょう。
そんなこと、あの優しいおじい様は望んでいないと分かっていたはずなのに、です。
そんな時――図書館探検部の説明会に顔を出し、のどかたちに押し切られるようにして仮入部して。
頻繁に出入りすることになった図書館島で……私は出会ってしまったのです。
「抹茶コーラ……? 何ですか、コレは……?」
「うわー、信じられないわねー。この自販機、何か変なのしかないんじゃない?」
「まともな飲みモン、あらへんやんー。普通のコーラとかお茶とかないんー?」
一緒にジュースを買いに来ていたハルナやこのかが、今とあまり変わらぬ感想を口にする中で。
私も、最初に見た時は信じられなかったです。我が目を疑ったです。アホかと思ったです。
炭酸飲料を紙パックに入れるなです。コーラをストローで飲ませるなです。最悪の組み合わせです。
でも私は、怖いもの見たさとでも言うのでしょうか? 思わず手を伸ばして……
「変な味……。誰が飲むですか、こんなもの……。
――って……味?! 今、確かに味がしたですか――!?」
そう。それは、おじい様が亡くなってから、初めて明確に実感できた『味』でした。
思い出に縛られていた私の舌を、現実に引き戻してくれたインパクトのある味。
心因性の味覚障害に対する、一種のショック療法になったんですね。私は思わず微笑んで、呟いたです。
「……図書館探検部、正式に入部してもいいかも、ですね。
こんなジュースが、他にもここにあるのなら――!」
――それからです。変なジュースをわざわざ探してまでして飲むようになったのは。
その変な味、常識から大きくズレた味覚が、私がこの世界に生きていることを実感させてくれるのです――
『――この『とろみ海鮮スープ・中華風』、ぶっちゃけ、ちょっと精液に似た部分があるです。
その粘り気、喉に絡まる感じ、魚介類の匂い、漢方の苦味……久々に思い出してしまったです。
この手の珍品は商品入れ替えの頻度が高いので、今のうちに飲んでおいた方がいいかもしれませんね。
図書館島でも地下2階の、一番奥まったところの自販機にしか置いて無いのですから……』
――図書館島、地下2階の奥の奥。
宮崎のどかは一冊の本を広げ、チラチラ中身を確認しながら、その休憩スペースに入ってきた。
抱えた本は、もちろん例のアーティファクト。前髪から僅かに覗く顔は、真っ赤に染まっていて。
休憩スペースに目的の自販機があることを確認すると、本に『戻れ』と命じ、カードに戻して懐にしまう。
キョロキョロとあたりを見回し、周囲に誰も居ないことを何度も確め、自販機で飲み物を購入。
もちろんそれは、『とろみ海鮮スープ・中華風』。彼女は恐る恐る一口飲むと、感慨深げに呟いた。
「これが……精液の味……? ネギせんせーのも、きっと……」
あの会話の後。気になってしまい、トイレに行くフリをしてこっそり『読んで』しまった夕映の回想。
祖父との関係にも大いに驚かされたが、しかしそれ以上に気になったのがその液体の味。
珍妙なドリンクの味を元に、乙女の妄想は果てしなく広がっていく。
ネギせんせーの精液……ネギせんせーのおちんちん……
昔の夕映みたいに、ネギせんせーのを咥えて……夕映と一緒に、夕映に教えてもらいながら……
「……何飲んでるのですか、のどか。ソレはあまり一般人受けしない味だと思うのですが」
「ひゃうぇッ!?」
妄想の真っ最中に突然声をかけられ、のどかは飛びあがる。
振り返ればそこに居たのは当の夕映。のどかの妄想を知らぬ夕映は、普段通りの醒めた表情。
「こんな奥まったところで偶然会うというのは珍しいですね。図書委員の仕事ですか?」
「あ、あの、その、あうう……!」
「私はこの自販機目当てで来たですが。ここにしか置いてないものが結構あるです」
「……あ、あたしもう行かなきゃ! ごめんね夕映ッ!」
「あ、のどか!」
淡々とした態度で自販機に向かう夕映、勝手にテンパって逃げ出そうとするのどか。
慌てすぎたのどかは、その場ですっ転んで……手にしていた紙パックが潰れ、中身が飛び出す。
『とろみ海鮮スープ・中華風』、その粘度の高い白濁した液体が、のどかの顔を直撃する。
「へぶッ!?」
「……何やってるですか、のどか。気をつけないと……」
悲鳴と共に倒れた親友に、夕映は呆れ顔で歩み寄る。
腰を抜かしたままパニックに陥るのどか、その汚れた顔を、なんと夕映はペロリと舐め上げた。
「え……」
「ほら、動かないで。綺麗にしてあげます」
「で、でも……そ、そんな……!」
「勿体無いですから。のどかがどう感じたかは知りませんが、私には好きな味ですし」
「な……な……」
ペロリ。またのどかの頬を夕映の舌がなぞり、白濁した『とろみスープ』を舐め取っていく。
もうその『スープ』がただの『スープ』とは思えなくなっていたのどかは……限界だった。
「ご、ごめん、夕映ッ! もういいからッ!」
「あ、の、のどか!」
夕映を突き飛ばすようにして、のどかはその場から走り去っていく。
その背を呆然と見送りながら、夕映は呟く。
「……全く。あんな顔で出て行ったら、誰かに誤解されますよ……?」
呟いて、ふと夕映はその『誤解』の内容に思い至る。そして思わず赤面。
実は全くそのことに思い至らず、単に綺麗にするためだけに舐め取っていたのだが――あれではまるで。
「まるで、これじゃ……!」
のどかがフェラチオをしてもおかしくない相手。その場に夕映が居合わせる可能性のある(?)相手。
そして、飲みきれずのどかの顔にぶちまけられた精液を、わざわざ夕映が舐め取りたいと思うような相手。
――そんな相手は、1人しか居ない。ここに至って、のどかの妄想と夕映の妄想が一致する。
「な……何アホな妄想してるですか、私はッ!」
それからしばらくの間。
夕映とのどかは互いの顔をまともに見られず、不審がるハルナに散々遊ばれることになるのだが。
まあ、どうでもいい余談である。
図書館島地下2階の自販機では、『とろみ海鮮スープ・中華風』が未だに入れ替えられず、残っている。
それを買うのは2人の女生徒だけに限られていたが、まあこれもまたどうでもいい話かもしれない。