313
「はじめてのおかたづけ」
中等部女子寮、大浴場。
その一室に響き渡る、ザァーという水音。
湯気の向こうに見え隠れする人影が二つ―――明日菜とネギが、お互いがお互いにもたれかかりながら、甘い声を上げる。
「あっ……ダメですよ、アスナさん………そこは………」
「んっ……何、言ってるのよ………いつもの、ことでしょ………」
ダメだと言いながらも、ネギはまったく抵抗もせずに、明日菜に身を委ねていく。
明日菜は明日菜で、そんなネギに困惑して、いつも自分がしてやっていることを躊躇している。
そんなことだから、動いていた手は当然のように止まってしまう。
やがて二人は、お互いの敏感な部分を見つめながら、顔を赤らめていた。
「つ、続けるわよ!」
先に口火を切ったのは、明日菜だった。
ネギはそれを聞くや、足を閉じてついに抵抗しようとする。
しかし明日菜の持つスポンジはそんなことはお構いなしに、泡で円滑になった足の間をいとも簡単に潜り抜けていく。
それはやがてネギの秘密の部分に到達し、明日菜はここぞとばかりに張り切ってネギの本体を探し当てた。
「い、いいですよおっ……じ、自分で……やりますからっ!」
「ダメよ、アンタはいつもそう言ってやらないじゃない」
ネギの最後の抵抗も虚しく、明日菜に軽くあしらわれてしまった。事実であるだけに、ネギは何も言い返せない。
足をもじもじさせたり、明日菜に寄りかかっている頭をふって悪あがきをしてみるが、
それに抵抗する明日菜に頭を押さえつけられ、かえってスポンジを持っている手に力を入れられてしまう。
ものすごい勢いで本体を擦られ、ネギはくすぐったさと気持ちよさに心を奪われて、いつしか抵抗することも忘れていた。
やがてネギは明日菜のなすがままに身を任せ、ものすごい勢いで高みに達し、ほとばしりとともに力が抜け―――――
―――――ネギは、目を覚ました。
「んあ………夢?」
気がつくと、そこは明日菜のベッドだった。
多少夢見心地のネギはそれを知りつつも、まあいいかと当然のように明日菜を抱き枕にしていた。
それというのも、ネギが布団に潜り込んでくることに明日菜が気を許すようになっていたからだ。
本人は頑としてそれを認めないが、実際のところ、修学旅行以後はネギが明日菜の布団に潜り込んでくる回数は増えているのだ。
それに対して明日菜は何かと突っかかってみるが、なぜかそれに罪悪感を感じるようになり、最近ではもう何も言わなくなっていた。
「う………う〜ん……」
シャンプーの心地よい香りが、ネギを夢から現実へ引き戻す。すると、下腹部に何か違和感があるのを覚えた。
もしやと思い、ネギは布団をめくる。この歳で……といってもまだ10歳だが、粗相をやらかしてしまったかと不安になった。
しかし、布団やシーツには何もついていなかった。
それではいったい、この下腹部の違和感はなんなのだろう。不審に思ってズボンとパンツをめくってみると、
見たこともないようなドロドロの白いものが、下腹部とパンツの裏地にびっしりと付いていたのだった。
「うわっ!?」
思わず、声を上げてしまう。しまった、と思い、ネギは口を押さえた。
だが、明日菜は起きていないようだった。時刻は2時半で、彼女が起きるにはまだ早い。
ネギはもう一度、パンツをめくる。初めて見るものではあったが、それが何かを知らないわけではなかった。
確か、美砂か誰かから聞いた覚えがある。
自分にとってはあまり関係ないと思ってその場は聞き流していたのだが、いざ経験してみると、聞いておけばよかったか、とも思う。
とりあえず自分の下着とズボンを汚したものは何なのかを考えるのはあとにして、ネギはパンツを取り替えて
ロフトに戻ることにした。そして明日菜の布団を整えようとして、身を乗り出す。するとネギは、大変なことに気づいてしまった。
「あっ………!」
明日菜のパジャマの裾に、しみができてしまっていたのだ。おそらく、彼女を抱き枕にしていたために付着してしまったのだろう。
(ど……どうしよう………)
慌てふためくネギだが、冷静に考える。ならば明日菜のパジャマを取り替えればいいということに気づくまでに、時間はかからなかった。
隅から隅までのタンス捜索の末に、ネギはようやく明日菜が着ているのと同じパジャマを見つけだした。
時計は既に3時を指している。薄暗い中で探していたので、かなり時間をとられてしまった。
衣服が散らかっているのが気になるが、そこまで気にする余裕はなかった。明日菜が起きる時間まで、あと30分もないのだ。
しみが付いているのを見られたら、きっと怒られるに違いない。
散らかった服はカモのせいにしようなどと不穏なことを考えながら、ネギは静かにベッドへ駆け上がる。
明日菜は気持ち良さそうに熟睡していて、当分起きる様子は見受けられなかった。
(………よし)
ネギは意を決して、パジャマのボタンに手をかける。
明日菜の寝息がネギの手にかかり、それが程よく平常心を刺激する。手を振るわせながらひとつめのボタンを外し終え、
ふたつめのボタンにもすかさず手をかけた。
「う………んっ……」
明日菜の寝顔が微妙に歪み、声とともに寝息が乱れた。
それはネギの本能を呼び起こし、また同時に罪悪感を煽る。先程までの安らかな寝顔が苦痛に歪んでいるかのようで、
思わず躊躇してしまう。。しかし、これをそのままにしておいたら、また明日菜に迷惑をかけてしまうのだ。
ネギの良心が、明日菜が起きるのを待って謝るべきだと主張する。その隣では悪い心が、バレなければ謝る必要も
怒られることもないんだから、脱がしちゃえと囁く。
英国紳士としてのプライドがあると思うなら、迷わず前者を選ぶべきなのだろう。しかし子供の浅はかな考えは、
それを選ばせるにはまだまだ幼すぎた。
結局ネギは、明日菜のパジャマを取り替えるほうを選択した。居候とはいえ、大好きなお姉ちゃんに怒られるのは辛い年頃なのである。
要はバレなければよいのだ。ネギはそう思いつつも、バレた時の言い訳を考えながら、
ふたつめのボタンにかけていた手を再び動かしはじめた。
(あ、あれ………)
しかし、このボタンがなかなか外れない。胸のところで盛り上がっているぶんだけパジャマが張っていて、外そうにも外せないのだ。
そしてそれは、明日菜の発育の良さを如実に物語っていた。ちょっと前は、ネギが無意識に顔をうずめても
すんなりと柔らかい感触が伝わってきたものである。それが今や、触れるとトランポリンのようにはね返されるほどに
パジャマが張っていた。
ネギは仕方なく、三つめのボタンに手をかけた。しかしここも胸の頂点で、なかなか外れてくれない。
どうしようかと考えつつ、下からボタンを外すことにした。
「……ん……ネギ………」
「は、ひゃいっ!?」
いきなり名前を呼ばれて、思わず驚いてしまう。
あわててパジャマにかけていた手を離し、両手をぱたぱたさせた。
「もう……しっかり………しなさいよ………」
どうやら寝言のようだ。
ネギはひとまず安心するが、逆に明日菜が起きるかもしれないという緊張感のほうが強かった。
むしろもう起きているのではないかとも思ったが、寝顔は依然安らかだ。
とりあえず、下手に手を出して起きられると困ってしまう。ネギはパジャマにかけていた手を止めて、一旦様子を見ることにした。
しかしネギは不安だった。明日菜は本当は起きているのではないかとしか思えなかった。
もし起きていたら―――このまま続ければ、彼女を脱がそうとしていたことで叱られる。だがここでやめれば、
パジャマを汚したことを咎められる。いずれにせよ、怒られてしまうのだ。
ふとそのとき、明日菜が寝返りをうった。左半身にかかっていた布団を抱き、丸くなる。そしてそのまま、俯せになってしまった。
(どっ……どうしよう………)
ネギは困り果ててしまった。これでは明日菜のパジャマを取り替えることができない。おまけに抱いている布団も
パジャマについた生乾きのしみが接触しているため、布団についた臭いもどうにかしないといけないのだ。
ネギは考えた。明日菜が寝返りをうったということは、彼女が眠っている何よりの証拠であった。ボタンを外そうとして
起きなかったことを考えれば、少しくらい乱暴に体を動かしたところで起きたりはしないだろうと思ったのである。
ネギが明日菜にそっと触れようとすると、パジャマがはだけている肩に月明かりで寝汗が光っていた。
そこから見え隠れする背中の艶っぽさは、ネギの好奇心にも似た興味を引き立て、ネギは明日菜の寝顔にまじまじと見入っていた。
大好きな姉は美人ではあったが、その姉に対して“可愛い”と思ったことはなく、それは明日菜に対しても同様だった。
それだけに、ネギは不思議な気持ちに包まれ、ときどき明日菜の寝顔を覗き込みながら、うなじに見とれて
いつの間にか手が止まってしまっていた。
そうだ、とネギが我に返ると、時計の長針は既に「4」を差していた。このままでは明日菜に怒られるという焦りから、
つい強引に彼女を仰向けにしようとする。
明日菜が起きるまで、およそ10分。おそらく眠りは浅く、僅かな刺激で目を覚ますだろうということは想像に難くない。
しかし怒られたくないことで頭が一杯のネギに、そこまでの気は回らなかった。
枕元に置いてある明日菜の携帯を気にしながら、ネギは彼女をひっくり返そうと必死だった。
力を入れるごとに、胸元と臀部の感触が敏感に伝わってくる。明日菜が起きたらどうしようという緊張感と、
教師として問題ある行為をしているという背徳感が、ネギの神経を研ぎ澄ましていた。以前はエヴァのような
貧しい体型でも目隠しをしながら着替えさせたことがあるが、今のネギにはそれをしなくてもひどい目にあったりは
しないだろうという憶測があった。
言ってみれば、ネギはそこまで明日菜を慕っているということなのだが、逆にそれは気の緩みとなって、
胸元を押さえている手が知らず知らずのうちに体の中心部へ移動していったのだった。
「あん………ッ!」
明日菜が寝ているまま、甘い声を上げる。ネギは驚いて、思わず手を緩めてしまった。
すると明日菜は、すぐにもとの寝顔に戻る。再びネギが明日菜をひっくり返そうとすると、力が入るごとに彼女の表情が
恍惚に歪んでいった。
力を入れるとだらしなく顔が歪み、力を抜くとそれが嘘のように和らぐ。ネギの悪戯心がそれに呼び起こされ、
引っ込めた手が再び明日菜のふくよかな部分に伸びていった。
子供の本能だろうか、ネギは先程までの危機感などすっかり忘れ、新しいオモチャを手に入れたかのような
嬉しそうな表情で、明日菜の胸を揉んでいた。当初の目的などそっちのけで遊びふけっているその姿はまるで
赤ん坊のようであり、好奇心に満ちた笑顔は、明日菜が起きるまで絶える様子は当分なさそうだった。
そんなことは知らない明日菜は、緩急のついた快感に身悶えていた。時折体を動かしながらそれに抵抗しようとして、
縮こまったり伸びをしたりする。
その反応を面白がるネギは、明日菜を人形のようにいじくり回していた。天使のような寝顔と悪魔のような
断末魔にも似た喘ぎのギャップが、好奇心を加速させる。
明日菜はそれを嫌がる様子もなく、何も抵抗しない。顔がほころんだり歪んだりと、その繰り返しだけで
ほかには何の変化も見られないのだ。
しかし、その理由はすぐにわかった。
「あッ……たっ、か……はた、せんせッ………!」
どうやら明日菜は、夢の中でタカミチに身を任せているらしい。
さっきは自分の夢を見ていたのに、いつの間にかタカミチの夢を見ているなんて。ネギは不満げに手を止め、明日菜から少し離れた。
明日菜の顔は安らかに戻り―――というよりは、妙にすっきりしてしまっていた。それが面白くないネギは、
開き直ってパジャマを再び脱がし始めることにした。
先程とは打って変わって、ネギはいささか無理矢理に明日菜をひっくり返し、ボタンを一気に全部外した。
パジャマから解放された明日菜の胸は、弾けんばかりにその存在を主張していた。パジャマに圧迫されていても
その形が崩れることはなく、その方向もしっかりと上を向いていた。
(わあ………)
これまで何度も明日菜の裸を見ている、まして木乃香の実家では直にその胸に触れたこともあるはずのネギだが、
これには素直に驚嘆せずにはいられなかった。寝汗で反射する月明かりが、彼女の寝顔の可愛さをいっそう引き立て、
普段から見ているはずの体のラインが妙に色っぽくネギの眼に映る。
しかし同時に、明日菜がタカミチの夢を見ていたことを思い出す。建前では明日菜のタカミチへの恋を応援してはいるが、
本音は寂しくて仕方ないのだ。故郷では姉に対して存分に甘えていただけあって、明日菜に構ってもらえなくなることに
危機感すら感じていた。
それはやがて、怒られたくない一心を完全に打ち消していた。実のところ、布団に潜り込むことに
明日菜が何も言ってこないのが、寂しくなっていた。
もしかして自分は明日菜に嫌われてしまったのではないか。その寂しさはいつしか不安に変わり、最近は悶々としていたのだった。
だから、本当は構ってほしいのだ。怒られたってなんだっていいから、自分のことを見てほしいのだ。
むしろネギは怒られるのを望むかのように明日菜のパジャマの袖を一気に引きずりおろし、ようやく脱がすことに成功した。
「………う……ん………」
その衝撃か、明日菜は二度目の寝返りを打った。今度は仰向けの状態からネギのほうを向き、膝を抱く格好になる。
ネギの膝に胸が当たる。不思議な感触だった。木乃香やあやかに膝枕にされることはあっても
自分が誰かを膝に寄せたりすることさえなく、それが姉貴分ならなおさらに、ネギにとっては心地よかった。
そしてまた、普段から世話ばかりかけているだけあって、自分が世話をしているような感じになっているのが気恥ずかしかった。
「ん……すー………」
明日菜の寝息で、ネギははっと我に返る。時計は既に3時半を過ぎていた。しかし明日菜の携帯のアラームは鳴っていない。
どうしたのだろう、と一瞬考える。だがそれはともかくとして今のうちだ、と
ネギは置いてあった明日菜のパジャマを手に取った。日に当たってふっくらとした感触は、思わず自分で
着たくなってしまうほど気持ち良かった。
だが、明日菜に風邪をひかせてはなるまいと、すぐにパジャマを着せる方法を考えた。ところが、ここから先が問題だった。
(……うーん……………)
ネギは頭を抱え込んでしまった。明日菜にパジャマを着せるには、あと2回は彼女を動かさなくてはならない。
しかし、明日菜はそうそうあと2回も寝返りをうってはくれないだろう。
すると自分で動かすしかないのだが、そうすると彼女もさすがに起きてしまうかもしれない。
起きたら起きたで、怒られるかもしれないが一応は構ってくれるだろう。
だが、そのあとに口を聞いてくれなくなってしまったら元も子もない。一度そういうことがあっただけに、
またそうなったらどうしよう、という不安がよぎった。
しかし、放っておくわけにもいかない。入浴中に呼び出されて絶交するくらいだから
(それをタカミチに見られていることが主因なのだがそれはさておき)、ネギにとってはまた絶好されても不思議ではないのだ。
ここまで来たら、後戻りはできない。いずれにせよ結局はパジャマを着せなければならないわけで、
もはや選択肢は無いにも等しかった。
ネギは再び明日菜の肩と腰に手をかけ、ごくり、と息を飲んだ。
緊張で手が震え、それが明日菜の肩と腰に伝わっていく。そのかわりに、彼女のふくよかな感触が、ネギの神経に流れ込んできた。
少しづつ少しづつ力を加え、慎重に体を自分の方に倒していく。すると明日菜はバランスを失い、体が一気に布団に沈んだ。
「うっ………ん………」
衝撃で明日菜がうめき声を上げる。ネギはしまった、と思い、つい身構えた。
しかしわずかに動くものの、明日菜は起きなかった。
本来ならもう起きる時間は過ぎているのだから、目が覚めてもおかしくないだろうに。
学園祭でよほど疲れていたのか、いっこうに目を覚ます気配はない。
ネギは何か見たこともない生き物を物珍しがるかのように、明日菜を指でつついた。彼女は熟睡しているようで、まったく動かない。
しばらく様子を見るが、何も変化はなかった。ネギは明日菜に近づき、両手でパジャマの襟をつかんで、彼女に被せた。
(………よし)
明日菜が起きていないのを確認すると、左腕をつかんで、袖をまくりながら少しづつ腕を通す。
すらりと伸びた腕は意外に細く、どこにあのバカ力があるのだろうかと思わせるほどだ。
パジャマの袖はすんなりと通り、きれいに肩までかけることができた。
ネギはすぐに右腕に取りかかる。既に左腕をパジャマに通してるので、右腕は曲げなければならなかった。
あまり動かすと起きるという不安と早くしないと起きるという焦りがジレンマとなり、ネギの緊張感を加速させる。
知らないうちにパジャマをつかむ右手は震えだし、腕をつかむ左手はもつれて上手く袖を通せなかった。
「ん………うう〜……ん………」
明日菜は何かにうなされているようだった。いったい今度は、どんな夢を見ているのだろう。
一晩の間に、そういくつも夢を見られるものなのだろうか。それよりも、明日菜が夢の中でどんな思いをしているのか、
そっちのほうが気になってしまう。
「あっ……高畑、先……せい、たか……はた…せんせ……ぇ……」
夢の中に出てきたのは、やはりタカミチだった。
ネギは手を止める。そして思った。自分はそれほど、必要とされてないのだと。
今の心境は、さしずめ“大好きな姉に男ができて複雑な心境の弟”といったところか。
修学旅行からこっち、明日菜が自分に対してしてくれたことのひとつひとつが、だんだん嘘のように思えてきた。
右手を袖に通すのをやめ、感情を押し殺しながら明日菜にパジャマを被せた。
明日菜がどんな夢を見ようと別にどうでもいいことなのだが、なぜだかそれが納得できないでいた。
自分に比べたら、タカミチは強さも桁違いなら器も桁違いだ。それに何より、自分が最も信頼を寄せている友人の一人だ。
明日菜が想いを寄せるのもわかる気がするが、それに納得してしまう自分が悔しかった。
このまま感傷に浸っていたら、自分が自分でなくなるような気がした。まして自分のやっていることは、
一歩間違えれば明日菜の信用を失いかねないのだ。
早く終わらせなければ、彼女を置いて図書館島へ行ったあのときどころではなくなってしまう。
ネギはそう確信して、パジャマを着せるのを再開した。
うつ伏せになっている明日菜を再び仰向けにしようと、ネギはもう一度彼女の肩と脇腹に手をかけた。
力を入れるごとに明日菜の柔らかさがネギへ伝わり、その感触で時折頭がとろけそうになる。
明日菜の体が持ち上がるにつれ、下敷きになっていた胸が布団を押し返すように弾んだ。
途端、彼女の声が漏れ、吐息がネギの腕に伝わる。
ネギは力が抜けそうになり、手が緩むたびに力を入れなおす。それにつれてネギの手ははからずも
明日菜を安定させようと体の中心部へ動き、吐息はだんだん激しくなっていた。
「はぅ……ぅ……うぅん………」
その声はネギの緊張感を高め、それは明日菜にかけている手に表れた。震える手がもつれるにつれて彼女の性感帯を刺激する。
しかし明日菜は、思うように手を動かすことができない。右腕は体の下敷きで、左腕はネギの腕に遮られている。
彼女は込み上げてくる刺激をどうにもできず、下半身も動かし始めた。その反動で、
ネギが脇腹を押さえていた右手は不安定になり、知らず知らずのうちに再び臀部へ伸びた。
臀部から脇腹へかけてうねる肉体が、ネギの手に如実に伝わる。そしてそれは、ネギの神経を徐々に冒していった。
手を当てているだけで、揉んでいるのと同じような感じがする。ネギはさらに快感を求め、知らず知らずのうちに力が入っていった。
明日菜がそれに反応し、下半身の反射は幾度となく続いた。それは再びネギの理性を侵食し、その手に力を入れさせる。
快楽が循環するうちに、やがて二人は力が抜けた。明日菜の体がたちまちにもつれ、ネギはそれをあわてて押さえる。
しかし却ってバランスを失い、ネギは明日菜もろとも倒れこみ、顔を胸にうずめる形になってしまった。
「うぶ」
「ひゃうっ………」
ぐちゅっ………
明日菜の声と同時に、ネギのパンツの中で何かが弾けた。そしてその下には、明日菜のパジャマの裾。
哀れネギ、最後の最後で、今までの苦労は振り出しに戻ってしまったのだった。
「……ん……もう……なに………?」
ほどなくして、寝言にしては妙にはっきりした声が聞こえてきた。
ネギはおそるおそる顔を上げる。すると明日菜は上体を起こし、ネギのほうを向いた。
明日菜が、起きてしまった。もう少しだったのに、起きてしまった。
またやってしまった。怒られる。嫌われる。口を聞いてくれなくなる―――――
ネギの恐れていたことがいっぺんに頭をよぎり、その重圧に耐え切れずに、泣き出してしまった。
「………ぅ……うえぇぇ〜〜〜ん………」
(……………??)
起きたばかりの明日菜は、何が何だかわからず困惑してしまった。
やたらと揺すられるので起きてみたら、いきなりネギが泣き出してしまうのだから。
いったいどうなっているのか、見当もつかない。ベッドの下には服が散らばり、そして自分の服が脱がされている。
そして隣には、パンツ一丁で泣いているネギ。
ここからいったい何を、どう推測しろというのだろう。バカレッドこと明日菜でなくても、
いやバカレンジャーでなくても、それは到底無理な話だった。
「……ネギ? いったいどうしたの、何があったのよ?」
明日菜はネギに尋ねてみる。そうしなければ、何がどうなっているのか彼女にはわかりやしない。
しかしネギは、それを詰問されているとでも思ったのか、いきなり明日菜に謝るのだった。
「ふえぇぇぇん……ごめんなさい、ごめんなさい……もう、しませんからぁ………」
「? 何であんたが謝るのよ。別にそんな悪いことしたわけじゃないんでしょ」
もう、わけがわからない。泣きじゃくるネギをあやそうにも、まったく状況がわからないのだ。
明日菜はネギの背中をさすり、どうにか彼を落ち着かせた。
「……………」
ネギは何も言わずに、明日菜から脱がせたパジャマを指差す。しわくちゃに丸められたパジャマから、しみのできた部分が覗いていた。
明日菜はそれが自分のパジャマだと気づいて、それを手にとった。裾についているしみは思いのほか大きく、
塩素にも似た刺激臭が鼻を突き刺す。
ふと気がつくと、今着ているパジャマとネギのパンツにも、同じしみができていたのだった。
「なるほど………ね」
明日菜はようやく、この状況を理解した。そしてネギが、汚したパジャマをわざわざ取り替えようとしていたことも。
妙に着心地の良いパジャマに付いたしみが冷たく、しかしその心遣いは温かかった。
だが、ネギが泣いている理由だけが、いまだにわからない。
もう一度聞こうかとも思ったが、追いつめるのもかわいそうだ。ネギが泣き止むのを待って、それからいろいろと聞くことにした。
しかしネギは、いっこうに泣き止まない。それどころか、何を言われるかと怯えたままだった。
「……うええっ、もう……しませんから……だから……だから、嫌いに……ならないで………
タカミチのとこなんて、行っちゃやだぁ………」
精一杯の声で、ネギは明日菜に懇願するように訴える。
明日菜はやさしくネギを抱きしめ、もう一度背中をさすりながら耳元でつぶやいた。
「バカね……そんなことで私があんたのこと嫌いになるわけないじゃない……」
いつもなら“そんなふうに思ってたのか”と文句をつけるところなのだが、明日菜とて
タカミチの夢を見ていたのだから、強くは言えない。
それを知ってか知らずか、ネギは“ホント?ホント?”とでも聞きたそうな眼差しで明日菜を見つめていた。
明日菜はため息をついて、ネギの気持ちを推し量る。しばらく経って、彼女からひとこと切り出した。
「ホラ、このかが起きる前にさっさとお風呂入るわよ」
「で、でもアスナさん、配達は……?」
そうだ。今日は月曜日、平日である。
時刻は4時ちょっと前だ。今から風呂に入って着替えて準備していたら、5時になってしまう。
しかし明日菜には、焦る様子はまったくない。不思議そうな顔をしているネギをよそに、明日菜は言った。
「今日は学園祭の代休でしょ。だから配達も休み」
「あ………」
ここでようやく、ネギは学園祭の前日に職員会議があったことを思い出した。
月曜日は代休、火曜日から片づけが始まることを学園長から改めて聞き、その日のホームルームで3−A全員にも伝えていたのだった。
自分で言ったことをすっかり忘れていた気恥ずかしさと教師としての情けなさに、ネギは打ち沈んでしまった。
「わかったらさっさと行く! こんなところ、このかにバレたらマズいでしょ?」
「ハ、ハイッ」
しょんぼりしているネギを元気づけるようにちょっぴり脅しをかけ、明日菜はネギと一緒に急ぎ足で浴室へと向かった。
休日とはいえ、配達に行く明日菜の朝食を作る木乃香も早起きするので、油断はできない。
今は眠っているが、彼女の体内時計が通常に戻って目を覚ますのも時間の問題だ。
とにかく、木乃香にバレてはマズい。それはネギだけでなく、明日菜も同じだった。
なぜなら、彼女の座っていたその場所も、シーツにしみを作ってしまっていたのだから―――――
明日菜は焦りつつも、ネギの嬉しそうな笑顔を見て、内心は安心して浴室のドアを閉めるのだった。
ちなみに昨日の夜、木乃香が明日菜とネギの下着をすべて洗濯に出してしまっていることを、二人はまだ知らない。
<了>