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「運命のむこうの贈り物」

「ネギ……起きてる?」 
一足早い明日菜の誕生日パーティーも終わり、静まり返った女子寮。 
クラスメイトの面々が騒ぎ疲れてことごとく各々の部屋で沈んでしまった最中、その一室で明日菜の声が静かにこだました。 
「はい、起きてますよ。どうか……しましたか?」 
明日の授業の準備をしていたネギは、改まって明日菜に訊き返す。 
気の抜けた声ではあるが、ネギは眠そうな表情ではない。時計を見ると、11時37分である。 
子供が寝るにはだいぶ遅い時間ではあるが、教職に就いているネギにとってはさして珍しいことではなく、 
普段からエヴァとの特訓や木乃香の手伝いなどもあり、むしろ当たり前になりつつあった。 
しかし今日、この時間まで起きているのは特別な理由があった。 
明日菜の一日早い誕生日パーティーが予想以上の盛り上がりを見せ、挙句には超と聡美が世界樹に花を咲かすと言い出し、 
マジックショーまで行われる始末で、すっかり遅くなってしまった。 
このマジックショーというのが、実は明日菜の10年前の契約を解く儀式だった。あらゆる魔力を遠ざける能力を身につける 
契約によってもたらされた呪いを解くために機械の慎重な調整が行われ、予想以上に時間がかかってしまった。 
明日菜の呪いが無事に解けたは良かったが、そのあまりの不思議さに超と聡美はクラスメイトから次々と 
質問攻めに遭ってしまった。明日菜とネギが二人で話し込んでいたあとも面々はヒートアップする一方で、ネギが駆けつけて 
収拾をつけるまで、アンコールの声すら聞こえるほどの騒ぎにまで発展していた。 
そんなわけで、パーティーが終わってから、まだ1時間しか経っていなかった。 

明日菜はベッドの上で携帯を見つめながら、ため息をついていた。 
(あと―――23分、か………) 
本来、明日菜に残されているはずだった時間。そして、彼女の誕生日までの時間。 
あと23分経ったら、自分はどうなるのだろう。 
やはり、死んでしまうのだろうか? 

実のところ、伝説などの類は信じない明日菜にとって、契約が解けたということは半信半疑だった。 
ネギの前では一応安心してはみせたが、本当は不安で不安で仕方なかった。 
時間が経つにつれて死の恐怖が迫り、それに堪えきれなくなって、気がついたら、ついネギに声をかけていた。 

「あのさ………久しぶりに、一緒に寝ない?」 

震える声を振り絞り、それでも平静を装ってかけた一声。ネギにはそれが、どう聞こえているだろうか。 
明日菜には死の恐怖とは別に、それがネギに知られてしまったら…という不安があった。 
どうせ最期なら、ネギにだけは弱みを見せたくないという変に頑固な思いもあり、それがかえって不安に拍車をかけていた。 

「どうしたんですか、アスナさん。珍しいですね」 
ネギは訝しげに、明日菜に声をかける。 
いつもなら、毎晩のようにうるさく布団に入ってくるなと言われていただけに、珍しいこともあるものだ、と、ネギは思った。 
カシオペアによるタイムスリップ騒動からこっち、いろいろあったことを思い返してみるが、10年前は10年前、今は今である。 
変わったことといえば、死ぬはずだった明日菜が一命をとりとめたことくらいで、あとは何ら変わらない日常だった。 
事は万事解決。ネギはそう思っていたのである。 
「い、いや……どうもしないわよ。ただ、たまにはこういうのもいいかなー…って」 
不安だ―――なんて言えない。言えるはずがない。 
いつもはネギに無理するな、心配かけるなと言っているくせに、自分がネギに心配をかけるわけにはいかない。 
あの時のことは自分一人で抱えるにはあまりに大きすぎたので、ネギや超・聡美に頼ってしまった。 
でも、本当は自分ひとりの問題。だから、どこかでそれを埋め合わせなければならない。 
そして何よりも、姉貴分として、同時にパートナーとして、自分はネギに頼られる存在でなければならない。 
しかし、そのプレッシャーは明日菜の気を持ち直させるどころか、逆に不安を煽る結果となってしまっていた。 

「それもそうですね、でも…ホントにいいんですか?」 
「アハハハ……忙しいんだったらいいわよ。それは…また今度ね」 
「そうですか。じゃあ僕、明日の準備があるので……おやすみなさい」 
「うん、おやすみ」 

(………バカ! 私のバカ! なんで、なんでそんなこと………) 
明日菜は今の発言を、思いっきり後悔した。 
今なら、ネギに甘えることができたかもしれない。助けを求める、最後のチャンスだったかもしれない。 
方法はいくらでもあった。逆に、明日菜がネギの布団に潜り込むことだってできた。 
だが明日菜は、その方法をとらなかった。それは、自分の弱いところをネギにさらけ出してしまうことを意味していたからだ。 

たったそれだけで、明日菜の不安は募る一方だということに、彼女自身はまったく気づいていなかった。 

「ふぁ〜あ……今日はもう遅いし、そろそろ寝ようかな……」 
パーティーで騒ぎすぎたためか疲れていたネギは、いつもより早く明日の準備を済ませることにした。 
ノートや書類を片づけ、畳んでいた布団を敷いて、パジャマに着替える。 
残っていたコーヒーを飲み終えてカップを台所に持っていこうとすると、ベッドの上の段からわずかに声が聞こえてきた。 

「………アスナさん?」 
ネギは声の主に、そっと声をかける。 
しばらく待ってみるが、返事はない。ネギは見かねて、ベッドの上の段へ上り、様子を見ることにした。 

明日菜は―――――泣いていた。 

「アスナさん、どうしたんですか、アスナさん!」 
尋常ではない明日菜の様子に、ネギは思わず声を上げる。 
だが、明日菜は布団をかぶってしまい、出てこようとしなかった。 

「見ないで! お願いだから、見ないで………!」 
ネギに見られてしまった自分の弱さを必死に隠そうと、明日菜はネギを突き放す。 
しかしネギは、明日菜が泣いていることに責任を感じたのか、一生懸命に彼女をなだめた。 
「アスナさん、落ち着いてください……いったい何が、あったっていうんですか………」 
ネギが声をかけていくと、だんだん落ち着いた様子になり、明日菜はネギのほうを向いた。 
涙を流しながら、下を向いて震える声で何か伝えようとする。 
ネギは顔を近づけて、明日菜の言葉を聞き漏らさないように耳を傾けた。 

「…………いの……」 

「えっ………」 
声にならない声を何とか出そうとしながら、明日菜は正直に自分の不安をネギに打ち明けた。 
「………恐いの……………っ!」 
「……それって、どういう………?」 
ネギはわけがわからず、明日菜に聞き返す。だが明日菜の顔は涙でぐしゃぐしゃになり、とても答えの聞けそうな状況ではなかった。 
下を見ると、明日菜の携帯がほのかに明かりを放っている。光の中には「23:51」の文字が画面に映し出されていた。 



(―――まさかアスナさん、まだ―――――!) 

ネギが立ち上がろうとすると、明日菜はネギの腕をつかむ。 
突然腕を掴まれて、ネギは明日菜のほうを振り返る。すると明日菜はネギの腕を引っ張って自分のほうへ引き寄せ、 
後ろからネギを抱く形になって耳元で小さくつぶやいた。 
「………ひとりに、しないで……………」 
今まで見たこともないような明日菜の様子に、ネギはあせる気持ちを抑え、思いとどまった。 
だが、頭の中ではどうしていいかわからず、混乱している。 
明日菜の呪いを解くことに関して、打てる手はすべて打ってきた。だが、これ以上はどうしようもないと知りつつも 
体が勝手に動いてしまっていた。 

―――――ぐいっ! 

明日菜に強く抱き寄せられ、ネギは抵抗することもままならなくなる。 
恐れていたことが、再び起きてしまう。ネギは恐る恐る、明日菜にたずねてみた。 
「アスナさん、もしかして………」 
大切な人を死なせたくないと思う反面、ネギの声は震え、かすれていた。 
「そうじゃないの………」 
明日菜はネギが抵抗できないように横になり、耳元でつぶやく。 
予想とは裏腹の明日菜の答えに、ネギは何が何だかわからなくなり、明日菜に身を任せるしかなかった。 

「だから……もう少しだけ、こうさせて………」 
ネギが振り向くが早いか、明日菜は精一杯の力でネギを抱きしめた。 
全身の力を抜いて、ネギは明日菜を受け止めようとする。しかし、明日菜の震えは止まらなかった。 

―――――助けて…私……離れたくない……まだ、死にたくないよ………助けて! みんな、助けて!! 

ネギの脳裏に、明日菜の悲痛な叫びがよみがえった。 
明日菜の震えとともに、助けを求める声がネギの胸に響く。 
助けを求めている声が聞こえているなら、やることはひとつ。 
ネギは、肩に回されている明日菜の両手を、包み込むようにそっとつかんだ。 

―――――いいんですよ、辛いときは人を頼っても。 

「……………あ………」 

明日菜の心に、一筋の光がこもった。 
時計は既に秒読みに入り、秒針だけが静かに音をたてる。 
一秒ごとに募っていた不安は、ネギの手に包み込まれたあたたかさによって、消えうせていた。 

それにつれて、明日菜の手を握るネギの手は、次第に握力を増していった。 
明日菜の手も、それに反応するかのようにネギの手を握り返した。 
二人はお互いに、呪いが解けていることを最後まで疑わなかった。 

そして、時計のすべての針が12を差したとき――――― 



明日菜は、14歳になった。 


「おめでとう、ございます」 
ネギは明日菜が生きていると信じて、やさしく声をかけた。 

ネギの手を握っていた明日菜の手が脱力し、ベッドの上に崩れ落ちる。 
そのかわりに、祝福の言葉に対する返事が返ってきた。 

「………ありがとう……………」 

明日菜の言葉が鍵となったかのように、今度はネギの手が脱力する。 
緊張が解けたのか、明日菜もネギを抱きしめていた腕を解き、溢れ出る涙をふいていた。 
肩を震わせて、ネギが振り返る。ネギはさっきまでと打って変わって、鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃに 
しながらむせび泣き、明日菜に抱きついた。 
「ちょ………ネギ?」 
「よかった……よかった………アスナさん………よかった……アスナさぁん……………!」 
元気そうな明日菜の笑顔に、ネギの抑えていたものが一気に溢れ出した。 
本当に不安だったのは、明日菜よりもむしろネギのほうだったのだ。 
この歳で家族の元を離れて遠い地で生活し、さらにそこで頼りにしていた、大切な人がいなくなってしまったら――― 

私はコイツのそんな気持ちもわかってやれなかったのか。 
自分のせいで、こんな辛い思いをさせてしまっていたのか。 

明日菜はそんな自責の念に駆られ、ネギの頭をやさしくなでながら、泣き出した。 
「ごめんね、ごめんね……ネギ……ごめんね……………」 

これで、すべて終わった。何の心配もなく、日常に戻ることができた。 
二人は吹っ切れたように抱き合い、思う存分泣きはらした。 


女子寮に、再び静寂が訪れる。 
涙が枯れるまで泣いたネギと明日菜は二人、あのままベッドの上でまどろんでいた。 

「う……ん………」 
いつもと同じ時間に、明日菜は目を覚ます。 
妙にすっきりして、いい気分だった。昨日まで、死に直面していたとは思えないほど、心が晴れやかだった。 
眠い目を擦って、起き上がる。昨日の配達をサボってしまった分もあるし、頑張らなきゃと 
張り切って立ち上がろうとするが、体が重い。 
見ると、ネギが明日菜に抱きついたまま眠っていた。 
(まったく、コイツは……) 
明日菜は抱きついたままのネギを引き離し、パジャマを整える。相変わらずのガキんちょぶりにあきれ果てるも、 
心の底ではネギに感謝していた。 
ため息をついてネギに布団を被せようとすると、お腹のあたりが冷たい。 
「あっ……コイツ、やったわね……!」 
パジャマを引っ張ってよく見ると、お腹の部分がネギの涙と鼻水まみれになっていたのだった。 

明日菜は再びため息をついてベッドを降りると、携帯が鳴る。 
アラームをセットした時間には、まだ少し早かった。こんな時間に誰だろうと思い、電話に出る。 
画面を見ると、見覚えのある番号だった。 
「もしもし……」 
『もしもし、アスナちゃん? ごめんね、寝てた?』 
「あ……所長! おはようございます、すいません、昨日は………」 
滅多にかかってくることのない新聞配達所からの電話だったので、思わず慌ててしまった。 
昨日の配達をサボってしまったことを怒られるかと思い、明日菜はしゅんとした様子で受け答えする。 
『いいのよ、アスナちゃんはまだ中学生ですものね』 
所長は怒っている様子ではなく、むしろ明日菜を労っているかのように答えた。 
「でも………」 
『気にしないで。いつも頑張ってるアスナちゃんのことだから、何かあったんでしょう。もしアレだったら、 
 今日も休みなさいよ。他の子の代わりとかいつもやってもらってるし……』 
それは所長なりの、明日菜への配慮だった。本来なら中学生である明日菜を働かせることはできないが、 
彼女がどうしてもというので特別に雇っているのだ。いつも真面目に働いてくれている礼というのも勿論あるのだが、 
逆にそれゆえ明日菜が休んだことは今まで一度もなかったので、とても心配だったのである。 
「じゃあ、お言葉に甘えて………」 
『はい、じゃあ今日はゆっくり休んで、明日からまた頑張ってね』 
「ハイ! ありがとうございます!」 
思いもかけない突然の休みに明日菜は戸惑いながらも、心の中では胸躍らせていた。 
正直なところ、もう少しネギと一緒にいたかった。また他にも、木乃香が起きる前にいろいろとネギに聞いておきたかったのだ。 
所長が電話を切るのを確認して携帯を机の上に置き、別のパジャマに着替えようと、明日菜は着ているパジャマを脱いだ。 

「……ナ………ん………」 
ベッドのほうで、ネギが何やら寝言を言っている。 
いつもなら他愛のないことなのだが、今日はそれが異様に気になった。昨日のすったもんだのあとだったので、 
些細なことでも気になって仕方がない。 
明日菜は一旦着替えるのを止め、ネギの寝言を聞き取ろうと聞き耳を立てた。 
「………スナ…さん……アスナ……さん………」 
それは、明日菜を呼ぶ声だった。そうには違いはないのだが、どちらかというと助けを求めているような―――そんな、弱々しい声だった。 
ネギが自分を呼んでいる。明日菜はとっさに、自分が下着姿であることも忘れて、ベッドに戻ってきていた。 
「ネギ!? どうしたの?」 
明日菜が声をかけると、ネギは目を覚ました。 
先程まで浸っていた明日菜のぬくもりを感じなくなった途端、夢の中から忽然と消えてしまった 
明日菜を探して、あてもなくさまよい続けていた。 
時間にしてほんのわずかだったが、どれだけ長く感じていたのだろう、目の前に現れた明日菜を見るなり、 
ネギは彼女に泣きついた。 
「うわああん! アスナさんひどいです、勝手にいなくなって………」 
言ってることがよくわからないが、ネギに心配をかけてしまったことは確かなようだ。明日菜はとりあえず、ネギに謝っておく。 
「あー……ゴメン。なんだかよくわからないけど……」 
いつもは強がり変に大人ぶってなかなか見せない子供のネギを、明日菜はすんなりと受け入れた。 
以前には何もできなかった自分が今、ネギを受け入れていることに、子供嫌いだったのがバカバカしく思えてくる。 
こういう子供の姿が、本来のネギなのだろう。明日菜はそう思い、ネギの背中をやさしくさすってやった。 

「!?」 
ネギの背中は、ひどく冷たかった。 
「ちょっと……アンタ、汗びっしょりじゃない。着替えないと、風邪ひいちゃうわよ」 
夢の中とはいえ、一人でいるのがよっぽど不安だったのだろう。ネギのパジャマは汗でずっしりと重くなっていた。 
自分の体からネギを離し、肩をつかんでネギに呼びかける。ネギはすぐさま自分の服を見るが、 
そう言っている明日菜の姿に、呆気にとられていた。 
「あ、あの……アスナさんこそ………」 
「えっ?」 
明日菜はここでようやく、自分が下着姿のままでいることを思い出した。まったく説得力のない自分の言葉が脳裏をよぎり、 
二重の恥ずかしさで明日菜は顔を赤らめた。 
「う、うるさいわねっ! 私はいいの!」 
ガキんちょに言われたのがよほど悔しかったのか、ついネギを突き放すようなことを言ってしまう。 
しかし明日菜は、自分で言った言葉がなぜか腑に落ちなかった。気がつくと、先程までの言動とは裏腹な発言を打ち消すかのように、 
ネギもろとも布団の中へ潜り込んでしまっていた。 

「!? アスナさん?」 
衝動的な明日菜の行動に、ネギは戸惑いを隠せない。 
明日菜自身も何をしているのかわからなくなり、自分の出た行動にただただ驚いていた。 
これではまるで、ネギを押し倒しているみたいではないか。しかし、恥ずかしさで暴走気味の明日菜を止めることなど 
本人はおろか今のネギにできるはずもなく、ネギはただ、今の状況を受け入れるしかなかった。 

「アスナさん、いったい……んむ゙っ!?」 
明日菜の真意を訊きだそうとするネギの口を、明日菜は自分の唇で塞いだ。 
そしてそのままネギを仰向けにして、貪るようにネギの唇を堪能する。 
毒を食らわば皿まで。あとは野となれ山となれ。以前の明日菜にとっては正しかったのだろうが、 
今はこれ以外に形容のしようがなかった。 

「ぷはっ! ……ハァ……ハァ………」 
明日菜の唇からようやく開放され、ネギは呼吸を整える。 
そして、明日菜の不可解な行動について、もう一度問いただした。 
「いったい、どうしたんですか? アスナさん、どうしてこんなこと………」 
「……………」 
明日菜はそれを聞いてネギの肩から手を離し、無言のまま俯いた。 
自分でも無意識だったが、内心ではネギが自分に対して特別な想いを持っていることを期待しての行動だった。 
しかし、ネギのある意味当然とも言えるその返答に、明日菜は自分の気持ちが裏切られたような気がしてならなかった。 
それがどうしても納得がいかず、やり場のない悔しさを紛らわすかのように、ネギに言った。 
「イヤなの………?」 
「えっ……」 
いつもと違う様子の明日菜にその真意がつかめず混乱しているネギに、明日菜はそのことで当り散らすわけでもなく、 
さりとてやさしく諭すわけでもなく、ただ率直な気持ちを、言葉を飾らずにネギに伝えるのだった。 

「本屋ちゃんや夕映ちゃんや……みんなとはできて、私とはイヤなの!?」 

「……………!!」 
目に涙を浮かべながら問い詰める明日菜の信じられないひとことに、ネギは雷を落とされたかのような衝撃を受けた。 
のどかの提案したクラスメイト全員との仮契約。それは本来、明日菜には関係ない、過去の世界での出来事のはずだ。 
だが、それを実際にやったのが今ここに、目の前にいるネギであることを、明日菜は悟っていた。 
ネギにとってはパラレルワールドのワンシーンに過ぎなかったかもしれない。しかし、明日菜にとっては9年前の 
紛れもない事実だったのだ。 

「私………わかっちゃった……ぜーんぶ、わかっちゃったんだ………」 
ショックの色を隠しきれないネギに、明日菜は淡々と語りだす。 
「あの時……私を助けてくれたのは、アンタだったんだよね………」 
ネギは答えない。どう答えていいか、わからない。 
そのことをなぜ今の明日菜が知っているのか―――それもあるが、唐突に突きつけられた疑問に対して 
明日菜を納得させうる答えを、ネギは持ち合わせていなかった。 
「……ぇ………ぼ、僕………」 
「いいの、全部わかってるから」 
返答に迷っているネギを包み込むように、明日菜は続けた。 

「あの時さ……私に言ったわよね、絶対守るって。でもさ……アンタが突然いなくなって、9年間、ずっと寂しくて……… 
 はじめてアンタがここに来たときも、あの時のこと、ずっと言いたくて……でも………そのときはまだ、呪いが解けてたわけじゃなかったし…… 
 それに……みんなと、その……キス、してたのも思い出しちゃって………」 
心情を淡々と吐露する明日菜の、吹っ切れたような、しかしどこかさびしそうな表情に、ネギは複雑な思いになりながらも、静かに聞いていた。 
「だから……アンタが本屋ちゃんと遊園地でデートしてたときも、ずっと気になってて……夕映ちゃんといっしょに、ついてきちゃったんだ…… 
 でも、夕映ちゃんは本屋ちゃんのこと応援してて……だから、だから私……どうしたらいいかわかんなくて……… 
 ホントはどっかでアンタのこと諦めて、高畑先生に逃げようとしてたのかもしれない………」 

自分が知る由もなかった明日菜の心情を聞き、ネギはのどかとのデートを悔やむ。 
実際には今の明日菜は、ネギにとって昨日までの明日菜とはまったく別の彼女なのだが、そんなことも忘れてしまうほど、明日菜の言葉には重みがあった。 
明日菜のパートナーでありながら、そんな彼女の気持ちを察することすらできなかったというのか。 
これじゃ教師どころか、パートナーすらも失格じゃないか。ネギは明日菜を直視できなくなり、ひたすらに自分を責めた。 

しかし明日菜は、そんなネギにはお構いなしに続ける。 
「でも、でも、アンタのことが……頭から離れなくて………忘れられなくて……… 
 アンタはあのとき“すぐに会える”って言ったけど、結局9年間ずっと待たされて……やっと、やっと会えて…… 
 それでもアンタは、私のことを生徒としてしか見てくれなくて………だから……今まで、ずっと寂しくて……… 
 今……もし私に魔法が効くのなら………返して! 私の9年間を返して!! 魔法で私の今までの9年間を満たして!!」 

明日菜なりの、精一杯の告白だった。これ以上ないほどの思いを込め、力いっぱいネギにぶつけた。 
だがネギは、その言葉を真に受けてしまい、責任感に押しつぶされて泣き出してしまった。 

「……ふ………ふえぇぇぇ〜〜〜……ん………ごめんなさい、僕………僕……………」 
「あっ……えと……その………」 
いきなり泣いて謝られるとは思わず、明日菜はあわててネギにかける言葉を探す。 
ネギはただ泣くばかりで、明日菜に何を言われるかとおびえながら、涙をぬぐっていた。 
結局、明日菜にもどうすることもできず、言葉をかけるかわりにネギを抱きしめた。 
「………ごめん。言いすぎた……だから、泣かないで………」 
明日菜の胸の中で、ネギは故郷の姉のぬくもりを感じながら、明日菜を抱き返す。 
ネギは受け入れたのだ。曲がりなりにも精一杯の明日菜の告白を、受け止めたのだ。 
そして次の瞬間、ネギは明日菜にも予測できない行動に出た。 

「……ん、んんっ!?」 
抱きつかれた明日菜がうろたえている一瞬の隙を見て、ネギは彼女の唇めがけて口付け返した。 
いきなりの不意打ちに、明日菜は抵抗する時間も与えられず、布団の上に崩れ落ちる。 
まるで口から魔力を流し込まれているかのような感覚に襲われ、ネギを支えていた手が脱力した。 
そしてそのままネギに覆いかぶせられる格好となり、明日菜はネギの為すがまま、自分の中になかば強制的に入ってくる甘い感覚に悶えた。 
「んっ、んんーっ! ぷはぁ!」 
わずかながらも抵抗しようとネギを支える腕に力を入れたところで、ネギは明日菜から口を離す。 
そして彼女の上から降り、イタズラに成功した子供のような満面の笑みで言った。 
「エヘヘヘ、これでおあいこですよ」 
(こ……コイツ………!) 
先程まで泣いていたかと思えば意地悪な笑顔に変わったネギの様子に、明日菜は拍子抜けしてしまった。 
やられた、と思い悔しそうに苦笑するが、姉貴分としての意地か、彼女はネギに言い返す。 
「何がおあいこよ、こっちはすっごい苦しかったんだから。それに……」 
言いかけて、ネギの右腕をつかんで持ち上げる。そして、ニヤニヤ笑いながらそのまま続けた。 
「この手はさっき、どこを触ってたのかな〜〜〜、ん? ネギ坊主?」 
「あう……そ、それは………」 
言われた途端にネギは真っ赤になり、俯いてしまった。 
先程のキスの時にはネギ自身はまったく意識してなかったのだが、彼の右手はしっかりと明日菜の胸を触っていたのだ。 
明日菜に言われて思い出し、返す言葉もなくなってしまって、ネギは顔を上げることができなくなってしまった。 

しばしの沈黙の後、俯いたままのネギを見かねて、明日菜はやさしく声をかけた。 
「ま……いいわ。私を9年も待たせたのは許してあげる。でも……さっきのはこの程度じゃすまさないんだからね」 
「え………?」 
明日菜が納得してくれたと知ってほっとしたのも束の間、ネギは彼女の小悪魔的な笑みを前にして 
何か危機感のようなものを感じ、その場で固まってしまうのだった。 


ネギは戸惑っていた。 
うっかりやらかしてしまった行為を、明日菜は許してくれそうにない。しかし彼女は怒っている様子ではなく、 
にんまりと怪しい笑みを浮かべながらネギに迫ってくる。 
「ネギ、覚悟しなさいよ〜〜〜」 
怖くないのに、怖くて動けなかった。怒鳴られたりハリセンで叩かれたりすることはないだろうが、 
ネギは逆に、明日菜に何をされるかわからなかった。 
ネギに手をかけようとする明日菜は、手をわしゃわしゃさせている。後ずさりしようとするも、ネギのいるところは既にベッドの端だった。 
逃げられないと知り、ネギはどうすることもできずに目を瞑った。 

ポコッ! 

「………?」 
何をされるかと思いきや、頭を軽く小突かれただけで終わってしまった。 
それだけだったことにネギはおそるおそる目を開けると、明日菜はため息をついて笑っていた。 
「バカね。アンタ、そのまま朝までいるつもりだったの? パジャマ、取り替えるわよ」 
そう言って、明日菜はネギのパジャマのボタンを外す。本当はくすぐってやろうかと思ったが、 
またさっきのように泣かれてしまっては後味が悪い。それもあるが、本当は泣いているネギを見たくなかった。 
そんなことはつゆも知らないネギだが、お仕置きを免れたことよりも明日菜がいつになく優しかったことに、心の底では安心していた。 

「………ん、ん〜〜〜………」 
ネギがパジャマを脱ぎ終えたところで、下から何やら唸り声が聞こえてきた。 
もしやと思い、明日菜は持っていたネギのパジャマを投げ捨て、携帯を見る。 
気がつけば、時計は4時半だった。それは明日菜が配達に出かける時間であると同時に、木乃香が起きる時間でもあった。 


「……ふぁ〜〜〜……あ………」 

―――――マズイ! 
明日菜はとっさにネギの腕をつかんで、再び布団に潜り込んだ。 
先程と同じ状況に困惑するネギに、今度は人差し指の腹を唇に当てる。 
ネギもその状況を察知したのか、自分の身を隠そうと明日菜に寄り添った。 

(………ん……あっ………) 
ネギの吐息が、明日菜の胸に直接かかる。瞬間、今までにない刺激が彼女を襲った。 
声を出したら、半裸でネギといるところを木乃香に見つかってしまう。しかし、ネギが布団に身を隠そうとするにつれて 
息は荒くなり、明日菜の理性を容赦なく侵食していった。 
さらに、明日菜は動くことができなかった。ネギが無意識のうちにベッドの端へ明日菜を追いやり、 
声を出すかわりに反り返りたくても、柵が邪魔になってしまっていた。 
(……ちょ………ネギ………やめ……ひっ!) 
明日菜は必死に声を抑えながら、ネギの頭を押さえつける。 
しかしそれは、明日菜にとって逆効果だった。いきなり頭を押さえつけられたネギは、それを逃れようと 
頭を動かし、息遣いは激しくなる一方だった。 
「んっ……!」 
絶え間なく襲う刺激に耐え切れず、明日菜はついに声を上げてしまった。 
あわてて口を押さえるが、見つかってしまったかと半分諦めかけていた。 
明日菜は必死に言い訳を考えながら、木乃香の様子をうかがう。 
だが、木乃香は特に何かを察知した様子もなく、目を擦りながらベッドの上段を見上げていた。 

「……おはよ〜…アスナ……」 
「………お、おはよう、このか」 
木乃香は寝ぼけているのか、明日菜に一声だけかけて浴室へ向かう。 
明日菜はネギの口を押さえながら、木乃香の様子を静かに見ていた。 
だが、口をふがふがさせるネギの吐息は明日菜に一時の安息も許さず、逆に彼女の平常心を蝕んでいく一方だった。 
「ん、んんう……っ………!」 
木乃香が浴室のドアに手をかけたのを見計らったように電撃は威力を増し、明日菜に第二声を上げさせる。 
さすがに木乃香も不自然だと思ったのか、ベッドの上段をもう一度見上げ、明日菜に声をかけた。 
「アスナ……どないしたん? 風邪、まだ治ってへんの?」 
「うん……大丈夫、だか、ら、心配……しないで………」 
「ほか、じゃ、ゆっくり休んでなー」 
木乃香はそう言うと、ゆっくりドアを開けて浴室に入っていった。 
幸い、半分寝ぼけていたので、特に何も言われることもなくやり過ごせたことに、 
明日菜は大きくため息をついて、押さえていたネギの口から手を離した。 

「ぷは、ハァ、ハァ、ハァ………」 
ようやく明日菜から開放されたネギは、肩を上下させながら大きく呼吸した。 
明日菜もネギの吐息から開放されて、一気に力が抜けてしまった。 
そして、先程まで自分を苦しめていたネギを見る。さっき撤回したお仕置きを今度こそしてやろうかと 
ネギの頬に手を伸ばすと、様子が変だ。 
何か恥ずかしそうな仕草で、落ち着きのない動きをしている。よく見ると、ネギは前にかがんだ状態で、 
体をくねらせながらもじもじしていた。 
「何よ、どうしたの? トイレ?」 
明日菜はネギに尋ねてみる。しかしネギは明日菜から目をそらし、首を横に降った。 
そうでなければ、いったい何なのか。明日菜は考えるが、ネギの仕草はどう見てもそうとしか思えない。 
もしかしたら我慢してるのかも、と思い、もう一度ネギに声をかけようとした。 
しかし、それはできなかった。ネギがいきなり、明日菜に飛びついたのだ。 

「………アスナさんっ! 僕、もう………!」 
「キャッ! ちょっとネギ!? どうしたのよ? あっコラ、ダメ、そこは……っ!」 
ネギを可愛がるつもりが、完全に形勢逆転―――などという冗談を言っている場合ではない。 
突然ブラの紐を引っ張られ、明日菜はとっさにネギの手を押さえようとする。 
だが、無意識に魔力が上乗せされているのだろう。明日菜の力でも押さえきることはできず、 
ブラの紐は彼女の胸が押し潰されんばかりに伸びていた。 

「いやあっ!」 
―――――怖い! 
直感で、明日菜はそう思った。 
そこにいるのは、いつものネギではなかった。普段とはおおよそ逆の、精神的に追い詰めるような凄みがあった。 
ただ、怖いと思った。何をされるかという不安とそれを“ネギに”されるという状況に堪えられなくなり、明日菜は目を閉じた。 
しかし、ブラを引っ張っていたネギの手が突然緩み、明日菜から離れた。 
明日菜はおそるおそる目を開ける。そこにはさっきまでのネギではなく、とはいっても 
いつもとは違って、弱々しく泣きじゃくっているネギがいた。 


「うわああああああああん! アスナさんが、アスナさんがぁ!」 

自分でこんなことをしておきながら、いきなり泣き出して明日菜を名指しにするネギに、彼女は困惑してしまった。 
まったくもって不条理な発言なのだが、怒るに怒れなかった。そんな顔で泣かれたら、私が悪いみたいじゃないか。 
明日菜はそう思うが、どうしたのかと聞くこともできずに、ただ泣くばかりのネギにどうしようもなく、様子を見るしかなかった。 

「アスナさんが、僕のこと嫌いになったぁ!」 

理性を失って明日菜に手をかけようとしたものの、ネギはどうしていいかわからなかった。 
考えてみれば、この歳で教師という大任を任され、しかも相手は年上のお姉さんばかり。 
良く言えばよりどりみどり、悪く言えば目の毒である。 
そんなところで、ネギは普段から溜まっていたフラストレーションを発散させる方法も知らずにここまで来てしまった。 
張り詰めていた糸がいつ切れてもおかしくないところに一度は大切な人の死に 
直面してしまったこともあり、もはや精神的に限界だったのだ。 
それをどうにかしようと、やり方は間違っているかもしれないが明日菜を頼るしかなかった。 
しかし、彼女の“制止”をネギは“拒絶”と取ってしまった。 

「……っば、バカッ! そんなわけ………」 
「う………うわああぁぁん!」 
乙女としては至極自然なことをそんな風に言われ、明日菜は悔しさ混じりに反論する。 
だが、かける言葉が悪かったのか、明日菜の言うことを最後まで聞かずに泣き声を上げるネギ。 
こうなると、もう手のつけようがない。テコでも動きそうもないネギを黙らせる方法は、ひとつしかなかった。 


「……んっ………!」 
何度目になるかわからない、そして今まででいちばん想いを乗せたネギへのキス。 
先程のネギの言葉を否定するように、拭い去るように、明日菜は自分の舌をネギの口の中へねじ込んだ。 
もう、そんなこと言わせない! 自分のせいで、あんな辛い思いはさせたくない!  
自分の気持ちを認めさせんとばかりに、明日菜はネギの口内で舌を暴れさせた。 
「んむ………んっ……んんっ………」 
明日菜に捕まったネギの舌は抵抗をやめ、やがて彼女の舌に這いつくばるかのようになすりつく。 
お互いがお互いを求め合う数十秒は、数分にも感じられた。 

「っはぁ! ハァ、ハァ……」 
ようやく泣き止んだネギを見て、明日菜は唇を離した。 
対するネギは落ち着きを取り戻した様子だったが、明日菜から目をそらしていた。 
紳士としてあるまじき失態をやらかしたという事実が心に迫り、明日菜に顔向けできないでいる。 
しかし彼女は、そんなネギをいたわるように手を取った。 
そして、もう片方の手を肩にかけ、ブラをはずした。 
ネギは案の定というか、当然のように依然として目を背けている。いきなり目の前で胸をさらけ出されては 
ネギでなくてもびっくりしてしまうだろうが、それ以上にネギ自身が変にプライドを意識してか、 
見ないように見ないようにと必死でそっぽを向いていた。 
しかし明日菜もあとには引けない。自分から2回もキスしているのにわからないガンコ者をわからせるために、 
手段を選ばないことを辞さなかった。 

「こっち……向いて………」 
なんだかんだ言いながらも、明日菜の声は震えている。勢いは弱く、しかし思いの強くこもったそのひとことに、ネギは振り向かされた。 
はやまったような気がして、今更ながらに恥ずかしさが込み上げる。死ぬのを免れたばかりなのに、死んでしまいたいとも思った。 
ネギは今度こそ、自分を餌食にするかもしれない。だが、それもいいと思った。もしかしたら、心の奥底ではそれを望んでいたのかもしれない。 
「アスナさん………」 
ネギの視線は、明日菜の胸よりも、むしろ表情に釘付けになっている。明日菜のネギに対する思いが、彼をそうさせている。 
しかし、次の行動にネギはなかなか出ようとしない。すぐそこにあるふくよかなぬくもりに手を伸ばそうとするも、 
明日菜の叫びが脳裏に甦って、それを躊躇させていた。 
その不安を拭い去る役目を、明日菜は自らの手によって果たす。引っ張られたネギの手は、そっと明日菜の胸に触れた。 

―――――あったかい。 

なぜだかひどく懐かしい感覚が、明日菜の胸から直接ネギの中に流れ込んできた。 
父の背中を追うこと、姉の優しさに守られることは忘れずとも、長年忘れていた感覚。 
まるで母の胎内にいるかのようなぬくもりと安心感に満たされる。 
トクトクと脈打つ明日菜の心臓の鼓動が、限りなくそれを増幅していった。 

「ネギ……おいで………」 

その言葉を待っていたかのように、ネギは明日菜の胸に飛び込む。 
抱えているふくらみはそのぬくもりに相当するかといえば不十分ではあったが、それでも 
ネギの手に収まるには十分過ぎるほどのボリュームがあった。 
まるで幼児退行してしまったかのように、ネギは明日菜の胸を揉みしだく。 
「んっ………ふああっ!」 
明日菜の内に秘められていた感情が、ネギの手によって声となって溢れ出る。 
はからずも緩急のついた手の動きは明日菜の母性本能を効果的に引き出し、無意識にネギの背中に手を回させた。 
そのまま明日菜は、ネギを自分の胸に抱き寄せた。彼の腕をつかんでいた手はいつの間にか離れ、気がつけば両手でネギを抱いていた。 



―――9年前に自分を助けてくれたネギが、今度は自分より年下になって帰ってきた。 
最初のうちは見ていられなくて、仕方なく面倒を見てやった。 
だがそれでも、あのときの恩をどうしても返したくて、率先してネギを手助けするようになった。 
そのうち、コイツの姉になりたいと思った。あわよくば、母親のかわりになることを望んだ。 
そして気がつけば、ネギのすべてを受け入れてあげたいと思うようになっていた。 
叶わないとわかっていても、ネギの心の一部でありたかった。それが今、他ならぬネギによって 
果たされようとしていることに、明日菜は言いようのない嬉しさに包まれた。 

「んん……んふぅ………っ!」 
「む………ふぅんん……んん………」 
明日菜の声に同調するかのように、ネギは本能の赴くまま、口付けをする。 
今度は明日菜のほうが口をわずかに開き、ネギの舌を受け入れた。 
そしてお互いを弄りあうこと数分、二人はいつの間にかベッドに横たわり、ネギが明日菜に覆いかぶさる形となっていた。 
「……んふぅぅ……んんっ、んーっ!」 
突然、明日菜の全身に突発的に電流が走った。 
ネギが上に乗っかっているためか、胸を揉んでいる手に力加減がなくなってきている。というより、バランスよく体重がかかっている。 
それだけでなく、ボリュームを持て余すほど小さい手でそれを行っているのだ。 
自分でするのとはまったく違う感覚に、明日菜は陶酔しきってしまっていた。 
「ふむぅんん………っ!?」 
(………ああんっ……ネギ……ダメ、そこは………まだ……まだ………!) 
明日菜の声に反応するかのように、ネギは下半身の力を抜いて、彼女の脚の間にうつ伏せのまま腰を落とした。 
途端、明日菜はスタンガンでも受けたかのように背筋をそらし、声にならない声を上げる。 
必死に声を上げようとするが、ネギは唇を離してくれない。明日菜は悶えながら下着越しに 
押しつけられている膨らみから逃れようとするが、腰を動かすにつれて胸への愛撫によって研ぎ澄まされた 
秘境の神経をほどよく刺激し、急速に腰の力が抜けていった。 

「んく、ん……んんー……っ!」 
しかしそれでも、明日菜は理性の欠片を集中して、耐えていた。 
ただ、ネギの支えになりたかった。楽しいことも、辛いことも、すべて受け止めてあげたかった。 
のどかが、夕映が、誰がネギのことを好きになろうが関係ない。今は自分が、ネギの姉なのだ。 
ネギを受け止めてあげられるのは自分しかいないのだ。それが唯一、ネギにあのときの恩を返す方法なのだから。 
それだけが、明日菜の気を維持させていた。ネギと一緒にいる、ただひとつの理由となっていた。 
「んむ………ふぁああん、あん! あ、あうぅぅん!」 
いつの間にか明日菜の唇はネギから離れ、反動でネギに押さえつけられていた快感が一気に開放された。 
それを合図に、ネギは貪るように容赦なく明日菜に甘える。明日菜はそれを真っ直ぐ、 
なおかつネギを離さないようにしっかりと受け止めた。 
それにつれて、ネギのおねだりは明日菜のとっておきを欲しがるごとくに追った。明日菜はそれだけは 
かたくなに拒んでいたが、紛らわすことを知らなかったとはいえ今までおあずけの状態だったネギは既に我慢の限界で、 
歯止めが利かなくなっていた。 
「うあ、はあぁぁ、アスナさん、僕……僕………あああん!」 
「ああん、あ、ネギ、ネギ、そこは……そこは……ひぁぁううん! ふああああん!」 
巧妙に上と下に同時に仕掛けられた悪戯にフェイントをかけられ、明日菜はいとも簡単に出し抜かれてしまった。 
それを止めるものはなくなり、ネギはさらに猛攻をかける。 
しかし、目的のものは戦利品にはならなかった。手が届く寸前で、力が抜けてしまったのだった。 
「はああぁん、あん、あ、アスナさん、あすなさあぁん!」 
「あう、ふううぅん、ふあ、あああああんっ!」 

びくんっ! びくん、びくん、びく、ひく、ひく…………… 


「はあ、はあ、はぁ、はぁ………」 
明日菜を圧迫していたものはやがてその勢いを弱め、ネギは明日菜の胸に崩れ落ちた。 
息を切らしながら、それでも胸に顔をうずめているネギを、明日菜は軽く小突いて言う。 
「……っとにもう、欲張りなんだから………」 
「す、すいません……僕も、なにがなんだかわかんなくて………」 
「ま……いいわ。これでやっと、アンタと一緒になれたから………」 
明日菜がそう言うと、ネギは顔を上げた。しぶしぶ言っているようにも聞こえるが、その笑みはいつになくきれいに見えた。 
それに見とれているネギの顔を見て、明日菜は急に恥ずかしくなり、顔を下へ向けた。 
ネギがそれにうろたえて何を言おうか考えていると、明日菜は体を横にして付け加えた。 

「私を9年も待たせたんだから……アンタにも9年待ってもらうんだからね……………」 

「えっ………」 
意味深な明日菜の言葉に、ネギは再び顔を上げようとした。 
先程からわずかに聞こえていたシャワーの音は、既に止んでいる。 
明日菜はそれに気づくと、再びネギと一緒に布団を被った。今度はしっかりと背中からネギを抱き寄せ、 
動かないように腕と胸に手を回した。 
それとほぼ同時に、木乃香が浴室から出てきた。明日菜が布団を被っているのを確認すると、 
寝てると思ったのか、自分のベッドに戻って再び眠りについた。 
しばらく経って、明日菜は布団から出てネギを見下ろす。この歳でろくに睡眠をとらなかったのが響いたのか、 
ネギは既に明日菜の胸を枕にして熟睡していた。 
まあ、この歳だから仕方ないか―――― 


この歳? 

ふと、明日菜は考えた。9年待て。彼女はさっき、確かにそう言った。 
ネギは数えで10歳だが、実年齢は9歳である。9年後といえば―――ネギは18歳、自分は23歳。 
そこまで考えて、ネギを見遣る。すやすやと眠るネギの寝言に、明日菜の思考は中断した。 

「………アスナさん……どこにも…いかないで……… 
 僕………アスナさんのこと………―――――」 

ネギがそこまで言いかけて、明日菜は人差し指でネギの唇を軽く押さえる。 
9年という時の流れが偶然なのか、はたまた運命なのか、それは明日菜にはわからない。しかし、 
不思議とそれを運命と信じてみたくなった。 
もしかしたら、ただの偶然なのかもしれない。だが、それでもよかった。いずれにせよ、ネギが 
自分への気持ちを言おうとしたのは事実なのだから。 
それでも結ばれない運命なら、変えてしまえばいい。今度は自分で変えていこう、ネギがそうしてくれたように。 

「ありがと………最高の、プレゼントだったよ―――――」 

ネギに対する恩が増えてしまったことを苦笑しながら、そっと頭をなでてやる。 
そして、自分の体をネギの前へ引き寄せ、頬に軽くキスして、目を閉じた。 


9年後、花嫁姿の自分の隣にネギがいることを夢見て――――― 

  

アニメ「魔法先生ネギま!」 完 


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