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(タイトルは未定)
(くそっ…なんだってんだ一体…)
少女は心の中でそう呟きながら、キーボードで文字を打ち込んだ
『みんなごめ〜ん ちょっと気分が悪いの…シクシク』
『大丈夫?ちうタン?』
『そろそろお開きにしようか…?』
『そうしようか、オレらのせいでちうタンに
病気になられたりしたら、イヤだもんな』
『ありがとうみんな… また明日ね バイバイ』
そう入力したのを最後に、少女、長谷川千雨は自身のHPの
チャットから退室し、パソコンの電源を落とした。
そして着用していた体操服とブルマを脱ぎ捨て
寝巻きに着替え、メガネをかけてベッドに腰掛けた
ここは麻帆良学園 学生寮 その中の長谷川千雨の部屋である
麻帆良祭が終了し、1学期も期末テストを残すのみとなっていた
実は千雨は麻帆良祭中盤、細かく言えば2日目の昼あたりから
奇妙な感情を抱いていた 否、「奇妙」なものではないのだが
千雨がこれまでに感じたことのない感情だったのである
(何で…アイツのこと考えてドキドキしてんだよ、チクショウ)
千雨の言う「アイツ」とは、彼女の担任、非常識な子供の教師
ネギ・スプリングフィールドのことであった。
ネギは麻帆良祭の初日、千雨にこう言った。
「僕、ちうさん…って言うより、千雨さんのファンなんです」
この一言は、千雨からすれば(良い意味で)かなり衝撃的だった。
今までの彼女のファンは、仮想アイドル「ちう」のファンが全てだった。
しかしネギは、「千雨」として見て、そして「千雨」のファンになったと言った。
このことで、千雨はネギを認め始めた。 そして2日目の、格闘大会本戦。
ネギに招待された千雨は、ネットで流れた「遠当て」の記事を見て
開始前は非常識でくだらないことを見せ合うお遊びだと思っていた。
そしていざ始まってみると、それこそ非常識の応酬で、しかしどこにも
トリックの種らしきものが見当たらなかった。
(1戦目でガキンチョが女子中学生を吹っ飛ばしたときは、ワイヤー
アクションか何かだろうと、目を凝らして会場全体を見てみたが
おかしな仕掛けはどこにも見当たらなかったのだった)
そんな非常識が飛び交う中で、ネギもまた、非常識を繰り出しつつ戦っていた。
ネットで流れていた「遠当て」の映像のように、遠くにいる者をおかしな光で
吹き飛ばしたり、子供とは思えない身体能力を発揮して空高く飛び上がったり…
まるで漫画のような、そんな戦い方をしていたのだ。
その戦いぶりが千雨の心に強く残っているのだった。
そして、ネギのことを考えると頬が火照り、鼓動が早くなるのを
自身でも感じるようになっていたのだった。そういった現象に
最も近い言葉を、長谷川千雨は知っていた…「恋」である。
「って!そんなことあるもんかよ!! あいつは10歳のガキなんだ…
それがこ、ここ、恋なんて言ったら、あのアホ委員長やバカピンクと
同レベルになっちまうじゃねーか!!! 違う!違うに決まってる!!!」
千雨は声を荒げて叫びまくった。
「だ、大体!私はアイツを『教師として認めてやった』だけなんだ!!
それに、今顔が熱いのは…風邪だからだ!そうだ!そうに決まってる!!
今日ちゃんと眠ってれば、明日になったら治ってる!!」
千雨はそう言うと、「よし、寝よう」と言った後、メガネを外し
ベッドに潜り、目を瞑った…
翌日 登校中…
(すっかり良くなってる…やっぱり昨日のアレは風邪だったんだな)
「おはようございます!千雨さん!!」
突然声をかけられ驚き、声のした方を見るとネギがいた。
「あ、先生、おはようございます…」
「じゃあ、僕急ぎますので!」
そう言うと、ネギは校舎に向け走り去った
(…じゃあいちいち声かけんなよ。「一緒に行きませんか?」って言われるかと…
って何を期待してるんだよ私は!!…こりゃ、マジなのかな…私はあいつを…?)
考えつつ、千雨も校舎に向けて歩いていった。自身の鼓動を感じながら…
そのころ、ネギの肩に乗っていたカモは、、ある異変を感じ取った。
(ありゃ? アニキに対する好意がガンガン上がってる娘がいるなぁ…
これは…あの千雨嬢ちゃんか? …こいつは、また面白くなりそうだな)
千雨はいつも通り教室に入り、いつも通り自分からは誰にも挨拶せず、席に着いた。
いつもと違うところは、ネギへの想いが募り、思考を鈍らせていることだけ…
(ちょっと話しただけでこれか…本気でマズイ…ひょっとして今も顔赤いんじゃ…)
「? 長谷川さん、どうかしたですか?」
突如、千雨の隣の席の綾瀬夕映が話しかけてきた。いつもは会話などしないので
突然話しかけられて、また考え事の最中だったこともあり、千雨は心底驚いた。
「うぇ!? な、何が? 私、何かおかしいか?」
「いえ、いつもよりも顔が赤くて、なんだか熱っぽいように見えたもので…」
「(や、やっぱり!?) そ、そうか!? 私は、そんなことないと思うけど?」
「そうですか? 本人がそう言うのであれば、私は別にいいですが」
そう言うと、夕映は席を立った。 またトイレか自販機に行くのだろう…
千雨は、表面上は平静を装い自分の席に座っていた。しかし内心大慌てだった。
(うぅ〜〜! なんで私があんな子供教師にホレなきゃならないんだよー!
そ、そりゃまぁ教師としては結構有能そうだし、格闘大会では、その…
カッコよかったし、『ちう』じゃなくて『千雨』のファンだって言ってくれたのは
その…嬉しかったけど…だけどあいつは10歳なんだぞ、そんなガキンチョに
骨抜きにされちまっていいのかよ、私は!?)
千雨がそんなことを考えている間に、また他の生徒が騒いでいる間に
チャイムが鳴った。HRの始まり5分前を告げる予鈴だ。それはつまり
5分後には担任教師が、ネギが教壇に立っている、ということを示している。
その結論が導き出された途端に、千雨は自身の鼓動が早くなるのを感じた。
(う…ちょっと考えただけでもこれか…これじゃあアイツに話掛けられたりしたら…)
そう考えると、少しゲンナリする千雨だった。だが、会えることを喜ぶ千雨もまた存在する。
数分後、ネギが教室に入ってきた。
「みなさん、おはようございまーす!」
「おっはよー!ネギ君!」「おはようございます、ネギ先生」「お、おはようございます…」
まき絵、あやか、のどかの3人を筆頭に、皆がネギに朝の挨拶をしていた。
そんな中、千雨はいつも通り、席に座ったまま、その光景を何気なく眺めていた。
するとネギが「あ、皆さんちょっと、通してもらえませんか」と言った。
そして生徒たちの作った輪を抜け、教室の奥へ向け歩いていた。そして
千雨の席の前で、その歩を止め、千雨を見ながら
「あの、千雨さん。ちょっといいですか?」
と、千雨に声をかけた。
「へ…? な、何か用ですか!? 先生!?」
突然声をかけられ、千雨は思わず声が裏返ってしまった。それに声の
イントネーションからも、慌てているのが手に取るように分かった。
その様子をネギは少々いぶかしんだが、構わず千雨にあるモノを差し出しながら言った。
「今日は、千雨さんが日直です。 忘れちゃダメじゃないですか」
「…へ?」と少々間抜けな声を上げながら、千雨は差し出されたモノを確認した。
表紙に「当番日誌」と書かれた、1冊の冊子だった。日直の人間の使うモノだ。
「え、あ、す…すみませんでした、先生。 次は、気をつけます」
そう言いながら、千雨は日誌を受け取った。 ネギは微笑みながら
「じゃ、今日1日、お願いしますね」
と言い、教壇に戻った。千雨は、黙って席に着いた。頬を赤く染めたまま…
(…長谷川って、この程度のことであそこまで慌てるキャラだったっけ?)
他のクラスメイトがまったく気にしない、あるいは気付かないことを
気にした人間が1人だけ居た。出席番号3番、報道部所属の朝倉和美である。
部活でインタビューなども行うため、観察眼にはそれなりの自信があった。
その自慢の観察眼が千雨の異常を感じ取ったのだ。一体どういうことなのか
何気なく考えを巡らせていると足元から何かおかしな鳴き声のような音が聞こえてきた。
机の下を覗き込んでみると、一匹のオコジョが居た。
(アレ? カモ君? …何か言おうとしてるのかな…?)
朝倉は、机の下に手を伸ばし、カモを自らの手の平に乗せ、自分の肩まで運んだ。
(姉さん、早めに気付いてくれて助かったっす。人語を
しゃべれないと、オレっち結構ストレス溜まるもんで)
カモがかなりの小声で話しかけてきた。クラスメートに
怪しまれないよう、朝倉もまた小声でカモに返した。
(そんなことはいいよ。それより、何か言いたいこと
あったんじゃないの?いつもは私のトコには来ないし)
(そう、それっす。 実は朝倉姉さんに協力してほしい
ことがあるんすよ。 明日菜の姐さんは反対しそうだし)
カモの態度は、修学旅行2日目の協力要請に酷似していた。
(何? また儲け話? それならいくらでも乗っちゃうけど)
嬉々とした、しかし周りに聞こえない声で朝倉は言った。
(さすが、察しがいいっすねぇ。 まぁ修学旅行のときの
ラブラブキッスみたいに、『ボロ儲け』とは行きませんがね)
そう聞いて、朝倉は少しガッカリした。しかし「ボロ」が付かないだけで
儲け話には変わらないので、朝倉はカモの話に乗ることにした。
(で、具体的にどういうことなのか、私は何をすればいいのか
報酬とかも含めて簡潔に説明してもらえる?)
(えっとですねぇ…長谷川千雨嬢が、ネギのアニキのことを
好いてるんですよ。 で、オレっちと姉さんの手で2人を
仮契約させて、オレっちのところに入る仲介料金を2人で
分け合おう、っていう話でさぁ)
カモからのミッション説明の冒頭部分に、朝倉は軽い衝撃を覚えてしまった。
(ちょ!? ちうちゃんがネギ君のことが好きって、それってマジ情報!?)
(えぇ… ん? 『ちうちゃん』って、姉さん知ってるんすか?千雨嬢の趣味)
朝倉は内心うろたえながら答える。
(ま、まぁね。 適当にデジカメ画像弄くったら、千雨=ちうって繋がって…
それよかちうちゃんが恋なんかしちゃってて、しかもお相手がネギ君って
ことのほうが、私からすればメチャクチャびっくりな話だよ…)
朝倉はどうやら大層ショックを受けたようだ。 頬に一筋の汗が伝う。
(まぁそれだけアニキは魅力的ってことなんすよw で、作戦の内容っすけど…)
朝倉のところにカモが居ることを特に気にせず、ネギは連絡事項を生徒たちに
伝えていた。そして伝え終わったときに、タイミングよくチャイムが鳴った。
「じゃあ、これで朝のHRはオシマイです。千雨さん、お願いします」
ネギは千雨を促した。 千雨は返事をせずに淡々と、しかし自分の熱を感じながら
「起立、気をつけー…礼」
と言って、日直としてのHRにおける役割を果たした。
(う〜…マジで顔が熱い…測ったら何度ぐらいあんだろ…? いっそ今日は
フケて更新とか撮影とかに時間費やしてようか…? 恥ずかしいけど、マジで
アイツに話しかけられただけで倒れそうになってやがる…チクショう…)
千雨はそう考えていた。HR中はなるべくネギの声を耳に入れないようにして
平静を保つことができたのだが、最後に促されただけで顔が火照ってきたのだった。