
802 ◆OSsd/MVqx2
「おねぇーちゃーん、楓ねぇー、どこですかぁー?」
麻帆良祭の準備でにぎわう麻帆良学園からそう遠くない林の中で、
か細い、今にも消え入りそうな声が聞こえてくる。
声の主の名は鳴滝史伽、小学生にも幼稚園児にも見える女の子だが
その正体はれっきとした中学三年生である。
なぜ彼女がひとりぼっちで林の中をさまよっているかというと……
「いまから、学内一週さんぽイベントの下見に行くよー!!」
放課後、史伽の双子の姉の鳴滝風香が底抜けに元気な声で言い放った。
だいたいこういったパターンは彼女の思いつきだ。
しかも史伽に拒否権は無い。
いつも強引に風香に引きずられてさまざまな悪事――だいたいは可愛らしい、いたずらだが――
の共犯者にされてしまうのだ。
「急にどうしたですか? お姉ちゃん」不安そうに史伽が尋ねる。
「いやさ、もうそろそろ麻帆良祭が近いじゃん?
さんぽ部としてもちゃんとしたイベントをやらないといけないでしょ?
準備無くして成功は無し! あらかじめ今回のイベントで回るルートを確認しなきゃいけないよね?」
確かに正論だ。言っていることに間違いは無い……が、史伽には風香のニヤニヤ顔を見ていると、
どうしても不安が顔に出てしまう。それを感じ取ったのか、風香はさらに明るい声で付け加える。
「大丈夫だよー、今回は楓姉も参加するんだから」
長瀬楓、さんぽ部部員で、幼児体型の鳴滝姉妹と違い、身長180センチを超える。
外見からか、性格からか同い年なのだが二人は彼女を「楓姉」と呼ぶ。
学生寮で同室ということもあり、公私にわたって彼女達の姉であり、保護者であり、秘密の師匠であった。
「楓姉も一緒でしたら……」
完全に不安が取れたわけでもないが、史伽はしぶしぶ了承する。
「よーし、じゃあ早速しゅっぱーつ!」
風香は楓を呼びにいくために教室から飛び出していった。
だがそのとき、「ニシシ」といたずらっ子特有の笑いをうかべていたのを
史伽は気付いてはいなかった。
「今日は絶好のさんぽ日和でござるなー」
楓と風香、史伽の三人は並んで学内の各地を歩き回っていた。
実際、下見も何も、いつものさんぽとまったく違いは無い、
少々さんぽの範囲が広くなっているだけだ。
たわいも無い雑談、各地での寄り道、買い食い……
麻帆良祭の準備やプレオープンでにぎわう学内は彼女達の好奇心を十分に満たしていった。
この時点で史伽は最初の不安も忘れて存分に楽しんでいた。
その後ろであいかわらず別な意味で楽しそうにしている姉に見守られながら……
日も傾きかけた頃、やや学園の中心地から離れたところで、
風香が思いついたようにクルリと振り返り、突然切り出した。
「ただ散歩しているだけじゃつまんないから、最後は競争しようよ。
ここからまっすぐ林を抜けたらエヴァさんの家があるから、そこに一番遅くついた人が
今夜の家事全部と学祭中の宿題を全部やること!」
「ふぇぇえ?いきなり何ですか??」
「妨害もありでござるかな?」
「もちろん! それじゃあ、よーいドン!」
あっという間の出来事だった。史伽は事情をつかめないまま一人、取り残される。
冷静に考えれば、今日の授業中、学祭期間に向けて大量の宿題が出された時点で
こうなることを予想しなければならなかったのだが……後の祭り、後悔先に立たず。
おそらく楓も宿題放棄を餌に釣られてしまったのだろう。
見事に史伽は風香(と楓)の術中にはまっていた。
「二人とも酷いです……」
全てを悟った史伽は史上最大級の出来レースを終わらせるために、
仕方なくトボトボと林の中へ歩き始めるのだった……
一方その頃、同じくエヴァ宅の近くの林で一人うごめく影があった。
聖ウルスラ学園の制服を着、頭にナースキャップをがぶった金髪の少女。
雪広せりか(仮名)はこの学園の警備を担当する魔法生徒の一人だ。
今回も学園警備の指示で、エヴァンジェリンの動向を探りにきていた。
一昔前は高額の賞金をかけられた凶悪犯エヴァンジェリン。
15年前、力を封印されて以来、おとなしくしているようだったが、
ここ最近になって急に彼女の周りがキナ臭くなってきていた。
学園一斉停電時の事故、修学旅行時の力の解放、一般生徒に対する過度の魔法技術の漏洩……
来週の麻帆良祭の時もきっと何か起こすはず。学園警備本部はそう見ており、
ほぼ24時間体制で、監視をつけていた。
彼女もそのローテーションの一人であり、ちょうどその交代の時間が近づいていた。
「……あら?こんなところに一般の生徒が……?」
せりかは途中不思議な二人組を見つける、
大きいのと小さいの非常にアンバランスなその二人組は
何か木の上でガサゴソやっていたかと思うと、
そのままエヴァンジェリンの家のほうへ走っていってしまった。
「一体何を……」
もしかしたらエヴァンジェリンの手の者かもしれない。
警備の目をかく乱させる結界でも設置されたら問題だ。
慎重に先ほど二人がいた木へと近づく。
魔法の気配を感じ取ろうとしたが、今のところそういった気配は無い。
「護符や、魔法陣は無し……魔力は感じないですが……」
慎重に木の前に立ち、観察する。ツタがからまっている古木。
とりたてておかしな所は無いように見えた。
さらによく調べようと一歩前に踏み出したとたん――パキッ――
せりかはあまりにも魔法の力に気をとられ、物理的、かつ原始的な存在にあまりにも無防備だった。
乾いた音とともに地面からツタが舞い上がる。
抵抗するまもなくせりかはツタにからめとられ、宙吊りにされてしまった。
「やっぱり罠……クッ、と、取れない……?」
必死にもがくが、ますますツタはせりかの体に巻きついていく。
足の間、手から胸にかけて、巧妙に動きを封じ込める配置となっていた。
素人目に見てもそのレベルの高さがわかる。
「あ、アデアット、きた……れ、あんッ!?」
手から杖のようなものがポトリと落ちる。
彼女が何か召還しようと身動きをしたとたん、さらにツタが締まっていったのだった。
少しでも動けば、ギリギリとしまっていく、かと言って絞め殺すでも無く、
ツタがまるで呼吸をしているようにせりかを翻弄していた。
「な、何これ、いやぁあ……」
半ばせりかはパニック状態になり本能的にツタから逃れようとする、
だがそれは無駄な努力、逆にせりかの体にますます絡み付いていくのであった。
「ん……いやだ、ツタが、変なところに、イヤ、イヤ、ヤァ……」
せりかは足をばたつかせるが、股間に張り付いたようにツタがせりかを締め上げる。
上半身でも二本のツタがせりかの大きくは無いが決して小さくも無い胸を絞り上げていた。
悶え動くたびに刺激を与えられ、せりかの頭の中は真っ白になり、何も考えられないでいた。
近くに小さな女の子が近づいてきていたこともまったく気付かないで……
「……やっぱりこれってお姉ちゃん達の仕掛けた罠ですよね……」
史伽は木の下で顔を真っ赤に染めながらぶら下がっている女性を見ながら、一人つぶやく。
まっすぐにエヴァの家に向かえば必ず通る場所、さらにあと少しでエヴァの家につくという絶妙なタイミング。
いたずらといえど人間の心理を確実に掴んでいるその罠に、史伽は奇妙な感動を覚えていた。
――もちろんその罠が自分に降りかかっていたらそんなこと思わないだろうが。
自分に被害が来なかったのは運がよかったにせよ、自分の姉の仕掛けた罠に無関係な人が引っかかっている。
そんなときの後始末はいつも史伽のお仕事だった。
幸い下のほうのツタは彼女の小さな身長にも届く位置にある。
一部分さえ解けば、解放されるはずだ。
史伽はそう思い、一番近いツタを引っ張ってみる。
「……ひゃん!な、何を……? や、止めてってば、ひ、引っ張らないでぇ!」
せりかは急に現実に引き戻される。しかも悪い方向に。
誰かが自分の足元で何かをやっている。せりかはそれが何者かもわからずに、
ひたすらその行為を耐えるしかなかった。
「はわわ、ま、間違ったですか? えーと、ここがこうなっているから……」
クジュ……せりかの反応と湿った下着に戸惑いながらも
史伽は必死になって下半身のツタを取り除こうとしている。
そのたびごとにせりかの敏感な部分に指やツタがあたり、
せりかはひたすらその攻めに耐えるしかなかった。
下のほうにいる人(声からしておそらく女の子)が
必死にこの罠から助けてくれようとしているのはわかる。
でもそのあまりに無邪気で無遠慮な行動はせりかにとってはたまったものでなかった。
「た、助けてくれるのはうれしいですけど、学園の事務局に助けを呼んでくれませんですか……?」
「もうそろそろ解けそうですからもう少しガマンしてくださいです……えーと、ここをこうして、こう!」
「ひ!!ひゃぁああああああああああ!!!」プシャァァアア……
史伽が一本のツタを引っ張るとせりかの股間のツタが一気に引き締まる。
せりかは突然の衝撃にひときわかん高い悲鳴を上げ、失禁してしまったのだった。
史伽が解けそうだと思っていたツタはただのダミー。
こういった伏線を仕掛けるだけでもこの罠が凶悪なのがわかる。
(これって楓姉が手伝っているですか……?)
せりかの失禁をまともに受けながらも史伽は思う。
もし楓が手がけているのなら自分の手に負えるものではない。
突然の悲劇に半ば放心状態になりながら史伽はせりかを見上げる。
「ヒッく、ううう、もういやです……誰か助けてぇ……」
史伽の顔面にはせりかの愛液か小水か涙かわからない水が絶え間なく降りかかっている。
もうどうしていいかわから無くなり史伽も一緒に泣き出しまった。
「ごめんなさいです、ごめんなさいです……」
一足先にエヴァ宅に到着した風香と楓の二人は
なかなか来ない史伽の様子を見に罠を仕掛けた地点へ戻ってみることにした。
「イシシ、史伽は上手く引っかかってくれたかなー?」
「この程度で足止めされているようではまだまだ修行が足りないでござるな。ニンニン♪」
罠の場所に近づくにつれて史伽の泣き声が聞こえてくる。
罠は成功と確信しうれしそうに風香が駆け出していった。
「史伽ー!!元気ー!?……げ?」
「大丈夫でござるかな、史伽?……あ」
そこで木にぶら下がっていたのは史伽ではなく、見知らぬ金髪少女。
その下で泣きじゃくる史伽。ある意味足止めには成功したのだが、被害者の数が少々多い。
「あは、あはははは。た、たまにはこういった失敗もあるよねー……」
「そ、そうでござるなーいやぁ失敗、失敗……」
「お姉ちゃんと楓姉のバカァ!!うわーーーーん」
「お願いだから誰か助けてーーーー!!!」
黄昏の空に騒々しい少女の歓声が吸い込まれていく――
これ以降、雪広せりか(仮名)のやることなすこと、何かにつけてケチがつくという悲喜劇はまた別のお話。
こんな些細な事件を飲み込みながら麻帆良祭の興奮は学園を包み込む。
終